【第541回】  天の気

『合気道の思想と技』の第493回「天の気、日月の気」に「天の気」について書き、以来、その「天の気」はどのようなものか、技でどのようにつかわなければならないのか等を研究してきた。そして、そのために、天地の呼吸、気、天の浮橋、水火の交流などの研究とその技の鍛練もしてきた。

これまでどうしても上手くいかなかったものがあったが、「天の気」と結ぶことによって、少し上手くできるようになった。つまり、「天の気」をつかわずして活きた技はつかえないということが分かったわけである。それは、正面打ち一教でのことある。どうなったかは後半で書く。

「天の気」と結ぶためには、開祖が言われる「うぶす」の社(やしろ)の構えをとることである。「左足を軽く天降りの第一歩として、左足を天、右足を地としてつき、受ける」である。

「左足を軽く天降りの第一歩として、左足を天」とは、まず、はじめに息を軽く吐きながら、左足を軽く地に着く。そして息を吸いながら、重心を右足に移動していくが、この時、左足は地から離れながら(気持ち的に)、息と気は天に上り、天と結ぶ。これが自己の気と「天の気」が結ぶことと考える。

次に、「右足を地としてつき、受ける」とあるように、右足を、息を吐きながら地に着ける。息と気は地中に下りていくが、腹が十分しまったところで、下りていく気の凡そ半分が地中からもどってくる。これを腹中に胎蔵するのである。これを開祖は「受ける」と言われていると考える。

この地から上がってくる気を受けて、息を吸うと、地に着いている右足側は、腹を中心にして、地に下りていく力と上に上っていく力の両方向に働く力が出てくる。この力は陰陽の気ということになろう。
これが、開祖が言われる、「天の気は陰陽にして万有を生み出す」ということであろう。
この「天の気」から生じた陰陽の気で技をつかえば、魄(力)に頼らない、魂のひれぶりで技がつかえるようになると考える。

正面打ち一教は、前から言っているように、極意技であろう。誰でも最初に教わる技であるが、最も奥深く、難しい技である。この正面打ち一教には、合気道の技の極意が数多く潜んでいると思う。

私の正面打ち一教は、まだまだ不完全であるが、「天の気」と結んで掛けていくと、それまで突破できなかった扉が開いてきたので、その「天の気」をつかう具体的なやり方(右半身での正面打ち一教)を書いてみる。

  1. 息を吐いて、後の左足を軽く地に着ける
  2. 息を入れながら、右足を進め、手を振り上げ(天の気と結ぶ)、
  3. 右足を着地し、相手の腕に息を吐きながら接する
  4. 天からの息と気を、息を入れながら右足の下の地に落とす
  5. 腹が十分しまったところで地から気が上ってくるので、その気に従って、縦に振り上げた手を横の十字に返す。但し、手の力(魄)ではなく、気の力で返すのである。従って、相手の腕は掴んではいけない。
  6. 後は、左手が相手の肘に自然に掛かり、手と足を陰陽につかっていけばいい。
「天の気」をつかうと、自己の気と天を結ぶことができる、宇宙との一体である。「天の気」とは、日月の気である。だから、「天の気」は陰陽ということになる。上がったり下がったり、出たり引いたりするのである。

つまり、「天の気」によって天の呼吸と地の呼吸を合わせて技を生み出していくのである。大先生は、技の練磨には「日月の気(つまり、天の気」と天の呼吸と地の呼吸、潮の干満の四つの宝を理解せねばいけないのである」といわれているのである。