【第54回】 螺旋

合気道の形稽古で下手なひとが技をする手は、引っ張ったり押したり、直線的に使っている。このため相手は崩れないし、極端な場合は持っている手を相手が離してしまう。合気道の動き、特に、手の動きは螺旋で動かなければならないはずである。相手に押さえられたり、持たれている手を動かそうとする場合、その手を押し返したり、引っ張ったりする力より、螺旋で回転させる力の方が強いはずである。螺旋は力を放出する遠心力と力を吸い込む求心力の両方が働くので、相手を飛ばしたり、吸収してしまうことができるのであろう。

合気道の技における螺旋、または渦は宇宙の生成および成立と一致するものであると同時に、マクロの宇宙の渦のミクロ版ということもできる。現代科学では、「原子のミクロレベルから銀河や星雲のマクロレベルまで、渦や螺旋が幾重にも重なった、不規則な断片構造であり、部分が全体と相似する構造となっているのが宇宙であり宇宙空間そのものなのだ。」といわれている。

また、開祖は「宇宙の動きは、高御産巣日神、神産巣日神の右に舞い昇り左に舞い降りるみ振舞の摩擦作用の行為により日月星辰の現われがここにまた存し、宇宙全部の生命は整って来る。そしてすべての緩急が現われているのです。タカアマハラのラの一言霊が六言霊を悉くふくめて天底から地底へ、地底から天底へ、らせんを描いて常に生命をたどっているのです。」(「武産合気」)ともいわれた。

螺旋には支点がある。支点が変れば螺旋が大きくも小さくも変る。手先を返すにも、親指、小指、その他の指、手首、肘、形、肩甲骨など支点の場所にとって螺旋は変わってくる。また、螺旋の動きは手先の対極の元の方から動かすことである。剣の素振りでもわかるように、剣先から動かすと弱い力しかでない。手先で螺旋の動きをしても、手先だけが動いているのではなく、体のすべての部分の動きと連動していなければならない。これが宇宙での「渦や螺旋が幾重にも重なった、不規則な断片構造であり、部分が全体と相似する構造」ということになるだろう。

螺旋の動き、螺旋の体使いをするために、日頃の体術での形稽古を意識してやらなければならないが、分かり易い稽古法の一つは、武器を使った稽古であろう。特に、杖の素振りはいい。鋭利な刀に切られないために、杖は常に螺旋で回転していなければならないという鉄則があるからである。

螺旋で上手く動けるようになれば、ミクロの宇宙と相似となるはずなので、新たな道が開けるかもしれない。