【第539回】  魂を表に、魄を土台に

大先生からは、魂を表に、魄を土台にした技をつかわなければならない、そしてこれは、「魄の世界を土台にして、魂の花を咲かし、魂を表に魄を土台にする世界の立て直しである」ということを、何度もお聞きしてきたし、また、『合気神髄』『武産合気』を読んでも、至る所にこの事が書いてある。

入門当時のころは、「魂を表に、魄を土台に」などには興味がなかった。魄オンリーの稽古をしていたし、それしか出来なかったからである。
その内に、「魂を表に、魄を土台に」した稽古をしたいし、しなければならないと思うようにはなってきたが、それがどのようなことなのか、そしてどうすれば「魂を表に、魄を土台に」した稽古ができるのかが皆目わからず、己の稽古余命も考えて、多少の焦りがでてきているところである。

合気道の技は、魂を表に、魄を土台にしてつかわなければならない。それまでの稽古で培った体の力(魄)を下に、心(魂)を上にして、心で技をつかうのである。それまでの技づかいは、この逆で、心はつかっても体の力の下になり、体の力が主導権をとってやっていたのである。

「魂を表に、魄を土台に」した技をつかうと、@相対稽古の相手とくっついてしまい、相手の力が抜ける A相手は違和感なくこちらの動きについてくる B相手が力んだり、頑張ろうつぃても、裏に控えている魄(体の力)で、相手は自ら態勢を崩すことになるようである。
また、大先生がよく言われていた、これまで意味不明な事が、これらのことで分かるようになってくる。例えば、空の気と真空の気、赤玉白玉、魂のひれぶり、ことだまの妙用など等である。

それでは、「魂を表に、魄を土台に」した技をつかうためにはどうしなければならないのかということになる。
それも大先生の教えにある。「天の呼吸、地の呼吸(潮の干満)を腹中に胎蔵する。自分で八大力の引力の修業をして、陰陽を適度に現わし、魂の霊れぶりによって錬磨する」(「武産合気」P 73)ということになるだろう。

まずは「天の呼吸、地の呼吸(潮の干満)を腹中に胎蔵する」である。
技づかいにおいては、左足を息を吐きながら軽く地に着き、そして息を吸い、息を吐きながら右足を地に着く。体重は右足を通して地に下りていくが、その力の一部が縦に上がってきて腹に集まる。そこで横の呼吸をする。胸が玉のように膨らむと同時に、息と力が下の地中と上の天と、天と地に相反して動く。
これが天地の呼吸であり、潮の干満であると考える。そしてこの呼吸が「魂を表に、魄を土台に」のために必須であると考える。
通常は、右足を息を吐きながら地に着ければ、地への一方向へしか息も力も働かないものである。

後は、「自分で八大力の引力の修業をして」とあるように、引力で相手と結んで、その結びを切れないように修業をすることである。
そして「陰陽を適度に現わし、魂の霊れぶりによって錬磨する」とあるように、魂の霊れぶりによって、体の力(魄)と心(魂)を状況に応じて陰と陽に適度に変更する鍛錬をするのである。勿論、これも容易ではない。「魄に墜せんように魂の霊ぶりが大事である」と大先生は注意されている。