【第538回】 高齢者の稽古の要点

50数年に亘って稽古を続けているわけだが、後期高齢になると稽古の仕方も以前とくらべると大きく変わってきている。年を取って変わってきているのは、悪いことだけではない。若い頃にはできなかったことなど、いい変わり方もある。
体力や持久力は確かに落ちる。若い頃のように、一時間休みなく投げたり受けをとることなどできない。しかし、集中力、瞬発力などが出るようになる。
また、若い頃は力主体の稽古をしているが、年を取ってからは理合いや息づかいを重視する稽古をするようになる。

合気道の本部道場の稽古時間は各1時間である。調子のいい時は短く感じるし、調子があまり良くなかったり、蒸し暑いときなどは長く感ずるものである。
高齢になってくると、かってのように1時間をはりきって目いっぱい体を動かすことはできなくなるし、やろうとも思わなくなる。
しかし、有難いことに、稽古のテンポ、技の遅速はこちらで制御できる。どんなに張り切って技を掛けてくる若者の動きの遅速も、こちらのペースにしてしまうのである。

人は本来、横着にできているようで、少しでも楽(らく)をしようとするものである。だから、1時間の稽古も楽しようと、だらだらとやってしまいかねない。これでは進歩、上達はない。何故ならば、進歩、上達するためには、自分の限界を超えることをしなければならないからである。だらだら稽古するということは、自分の限界内で稽古するということである。

しかし、自分の限界以上の稽古を1時間し続けることは、高齢者には無理である。それではどうすればいいかということになる。それは、かって有川定輝先生が言われていた、「3分集中の稽古」である。3分間だけ身心を集中した稽古をするのである。有川先生も云われるように、人が本当に集中できるのは3分間ほどである。あとは、高齢者のペースで、その日の体調に合わせて稽古を続ければいい。

高齢者の稽古の次のポイントは、課題をもって稽古をすることである。若い頃は稽古に来ていろいろ学んでいったわけだが、高齢者になると他から教えて貰えることなど、どんどん少なくなり、いずれ無くなってしまう。だから、他に期待するのではなく、自分で問題を見つけ、それを道場の稽古で解決していくのである。稽古中に解決できなければ、自主稽古で試してみればいい。課題によっては、すぐにその回答を見つけることができるものがあるだろうが、数日、数年かかるものもある。焦らずにその課題に挑戦していかなければならない。折角、今日はこの課題に挑戦しようと稽古をはじめても、相手に力一杯抑えられたり打たれたりすると、そのことを忘れてしまい、何のための稽古だったのかを見失ってしまいかねないが、課題を追及し、そうならないようにすることである。

高齢者の稽古の三つ目のポイントは、密度の濃い稽古をすることであろう。密度が濃いということは、無駄な事をしないということである。つまり、合気の道にのった、宇宙の法則に則った稽古をすることであり、合気道の道を外れた外道に陥った稽古をしないことである。
道にのれば、進歩上達がある。つまり、合気道の目標に近づくわけである。その目標に近づき、進歩、上達を感じた時に真の喜びを感じ、満足するのである。
そのように密度の濃い稽古をすれば、いい稽古ができたと満足できるし、密度の濃い一日を過ごせば、いい一日だったと思える。また、それが日々続けば、いい一年だったと満足できることになるわけである。

高齢者の稽古の要点は、まだまだあるようだが、これからも引き続き書いていくことになるだろう。
取りあえず、今回はここまでとする。