【第536回】 後ろ足を大事に その1 歩法

合気道の形稽古で技を掛ける際、一般的には手で掛けるので、手に注意がいくようだが、実際には、技は足で掛けるものと考えている。足づかい、歩法によって、体重を片方の足から他方の足に移動し、己の体重を手でつかえるようにするのである。両足が地に着いた状態では、この体重をつかうことができないから、手を振り回すほかなくなるわけである。

歩法によって体重移動がスムースにできるためには、ナンバの歩法でなければならないはずである。同じ側の手と足が一緒に、右左交互に進む歩き方である。何も難しい歩法ではなく、世界中の誰もが無意識のうちにやっている歩き方である。例えば、階段の上り下り、山登りや急斜面の上り下りなどである。この歩き方は、体の移動が安定してできるし、体を自由自在に変更したり(方向を変えたり、急停止したり、急発進したり)、また、疲れない歩の進め方である。

もう一つ、体重移動がスムースにできるためには、体が一軸になって進むことである。一軸が右左陰陽に移動しながら進むことになる。この一軸の移動によって、正面打ちや太刀を捌くことができるのである。これをやらないと、正面打ち入身投げで相手の死角に入身することは難しい。その結果、己の腹が相手と向き合い、組み合う形になってしまうのである。

先ずはナンバの一軸で左右陰陽に歩を進める稽古をしなければならない。それまでの歩法と違うわけだから、ちょっと戸惑うだろう。しかし、昔、ナンバで歩いていた先祖の血を引いているわけだから、必ずできるようになるはずである。街で歩く時、家や会社で歩く時などに、注意しながら練習すればいい。もし、それでも難しければ、高い階段を、意識して上り下りしたり、山登りをすればいい。

ナンバの一軸で左右陰陽に歩を進めることができるようになったら、それを形稽古でつかうのである。相手を倒そうなどと考えず、歩法に集中して技をつかうのである。それまでとは質の違う、本当に合気の稽古をしているという実感が持てる稽古ができるようになるはずである。

しかし、歩法にはこの先がある。まだまだやるべきこと、研究しなければならないことがあるのである。
その一つに、今回のテーマである「後ろ足を大事に」がある。
しかし、区切りもいいし、これを書くと、字数も多くなりそうなので、このテーマは次回にする。(続く)