【第528回】 腹と腰

合気道の技は主に手で掛けるわけだが、これまでは手は体の中心の腰腹と結び、腰腹によって手をつかわなければならないと書いてきた。
一般的には、腹に心気を集めて腹をつかえなどと、腹が大事であるといわれている。
しかし、合気道で技の錬磨をしていると、確かに腹も大事だが腰も大事であると思うし、また、腹の方が大事なのか、腰の方が大事なのかを判断できないでいた。そこで、取りあえず、腰腹と書いてきた次第である。

合気道の相対稽古で、受けの相手に技を掛ける際、手と結んだ腹で技をつかっているはずである。そして受けの相手は、技を掛けている相手の腹の力を感じることになる。
しかしながら、腹で技を掛けるということは、腹は体の中心ではないし、動かす手の支点でもないということになる。何故ならば、合気道の技づかいの大事な原則として、「支点を動かしてはならない」(正確には、支点から動かしてはならない)があるからである。もし、腹が中心で支点なら、腹から先には動かせないはずである。
しかし、技を掛ける際は、腹で掛けているのも事実なのであるし、間違ってはいない。つまり、法則違反ではないはずである。

この矛盾と不合理を解決しなければ、体の中心からの力を十分につかうことはできないし、更なる技の錬磨ができないことになる。

これまでは、腰を力の源とし、体の中心・支点として体をつかい、技を掛けてきた。この体の中心である腰からは大きな力が出るし、技も掛かりやすくなる。腰は確かに、体の要(かなめ)であり、体の中心であることは確かである。

技を掛ける際に、腰と腹をよく観察してみると、腰と腹はともに働いてくれていることがわかる。つまり、腰が支点となり、腰からの力が腹に伝わり、その力が手に伝わっているのである。手と腹と腰が結び、腰が支点となり、腹がその用となって働くというわけである。つまり、腰は「体」であり、人体の中心になっているものであり、腹は「用」で、本体の性質の働きをするものということになる。一般的には、「用」と「体」の関係を、例えば、海や浦が「体」で、浪や氷が「用」という関係で説明されている。

支点の腰がしっかりし、腰と腹が結び、腰から大きな力が出れば、腹が自由自在に働くことができるのである。速くも遅くも、強くも弱くも自由である。勿論、そのためには、股関節が柔軟でなければならないとか、息に合わせて腹もつかわれなければならないことは云うまでもない。

この腰を支点として、腹を腰の用としてつかう最良の稽古は、坐技呼吸法であると考える。腰の支点を鍛えることができるし、この腰を支点として腹を鍛えることができる。また、股関節を柔軟にすることもできる。股関節が柔軟になれば、腹がさらに働いてくれることになる。
また、片手取りや諸手取の呼吸法も、このことがわかりやすい稽古法であろう。

初めは、腹は大きくも速くも動いてくれないだろうが、何度も緯古をすれば出来るようになるはずである。そして、それができてくれば、通常の形稽古でもそれを身につけていくようにすればいい。