【第525回】 手の陰陽は両手で

合気道の技は宇宙の条理に則ってつかわなければならない。つまり、合気道の技には法則性があるのである。それも宇宙規模の法則である。宇宙規模というのは、時間と空間に関係なく、何処でも、何時でも通用するということである。過去でも遠い未来でも、また、日本だけでなく外国でも通用するということである。

その法則の中に、「陰陽」の法則がある。陽とは働いているモノや側、陰は陽として働くために待機しているモノや側と云えよう。
陰陽の法則に則ってつかわなければ上手く技にならないことが、最もわかりやすいのが、足の陰陽であろう。左右の足を交互に規則的に陰陽につかわなければ、体が自然に動いてくれないし、技が上手くつかえないので、技が掛からないのである。
足の陰陽は、陰陽の基本と考える。

さて、今回は、手の陰陽について書いてみることにする。
手は足と同じように、左右に一本ずつあるから、足と同じように、左右を交互に規則的に陰陽につかわなければならないことになる。つまり、両手を陰陽につかわなければならないわけである。
両手を陰陽につかわなければ、技が上手く掛からないことがわかる、代表的な技の形は「天地投げ」であろう。初心者は、持たれた側の手をどうしても陽、陽でつかうので、相手とぶつかったり、相手に頑張れてしまうのである。

両手をつかわないと、手の陰陽にはならない。「天地投げ」でも「正面打ち入身投げ」でも、両手を陰陽につかうから、相手を導くことができ、技になるのである。
相手と接したら、接した手は陽であり、その反対側の手は陰である。接している箇所は動かしてはいけないわけだから、その陽にある接点を支点として、今度は反対側の陰にある手を陽として動かすことになる。陽が陰に、陰が陽に変わるわけである。そしてまた陰が陽、陽が陰に変わっていくのである。

手の陰陽は足の陰陽と連動する。足は体の中心の腰腹と結び、腰腹で足をつかうと同様、手も腰腹と結び、腰腹でつかわなければならない。つまり、手と足と腰腹は結び合い、連動して動かなくてはならないのである。さもないと、手を陰陽につかうことはできないはずである。

また、左右の手は原則的に左右対称になっているはずである。左右の手が水平だったり、左右の片方が上がり他方が下がるとかである。体の中心から等間隔にあり、シーソーのように動くのである。かって本部道場で、有川師範が両の手をシーソーのようにつかわれていたが、その意味がやっと分かったわけである。

両手を陰陽でつかう稽古は、両手取りでやればいいわけだが、それでは片手取りの場合はどうなるのだろう。結論を言えば、片手取りであっても、両手を陰陽につかうようにしなければならないはずである。つまり、片手だけを取られたり、正面打ちなどの場合でも、両手を陰陽でつかわなければならないのである。
例えば、片手取りとか諸手取の呼吸法でも、掴ませた反対側の手も陰陽でつかわないと上手くいかないはずである。持たせた側の手も大事だが、その反対側も大事なのである。

この片手取りとか諸手取の呼吸法の場合、持たれた手だけでやってしまうと、胸が閉じがちになり、力がこもってしまい、十分な力が出ない。胸は開かなければならない。そのため、両の手をつかわなければならないのである。手の末端にある胸鎖関節の働きが大事になる。

両手取りはもちろんのこと、片手取りでも、すべての稽古で、手は両手を陰陽につかって技をつかわなければならないと考える。