【第523回】 先延ばしにしない

人は先々の事を考えて生きている。いい学校に入って、いいところに就職して、いい結婚相手に恵まれ、いい家庭をつくろう等である。その為にお金を先々のために貯めたり、買いたいものや、やりたい事も我慢してしまう。
そして、これが堅実な生き方と評価されているようだ。

老人になっても、先々を心配したり、先々に期待したり、先々のことを考えて生きていくのは、堅実で安全なようだが、面白くないのではないだろうか。
やりたいことを我慢したり、今やるべきことを明日に伸ばしたり、後に期待したりしては駄目だろう。

合気道の稽古でも、やるべき事や、やりたい事は、その時やっておくようにしなければならないだろう。明日はないかもしれないから、その時になって後悔しないためでもある。

後でやろうなどと思うのは、頭で考え過ぎるからだと思う。頭で気持ち(心)を抑えてしまっているのだと思う。もっと、気持ちを大事にして、心が頭を導くようにしなければならないだろう。自分のやりたいことを、やりたいようにやるのである。
合気道の稽古をするのに、先々の事を考えたら、上達などないだろう。心が自由闊達に働いて、はじめて己の潜在的な底力がでてくるはずだからである。

虫取りに明け暮れる解剖学者の養老孟司さんは、『老人の壁』で、先延ばしする老人について、次のように皮肉っている。
「老人はお金をもっているが、まだ、先のことを心配して、使わないという。養老孟司さんは、老人があんなにお金を持ってるじゃないですか。使わないで取ってて、何かに使おうと思ってるんでしょう。で訊くと、『いざっていうときのために』って言う。『いざ』って、あなた、死ぬだけだろうって(笑い)」(P.138)

いつお迎えがきても、やりたい事は十分やったといって、あちらに行きたいものだ。
そのためにも稽古も先延ばししないようにしなければならないだろう。

文献 『老人の壁』(養老孟司 南伸坊 毎日新聞出版)