【第522回】  手が存分に動くための得物での稽古

合気道の稽古は技の錬磨であるが、技は主に手で掛けるから手の働きが重要となる。手が十分に機能しなければ、いい技にはならない。
手の主なる大事な機能は、中指や希望する他の指と肩を結んだ軸をまわる、縦の右左の回転運動、その軸に対する横の円運動、四教などでつかう絞り、遠心力での伸ばし、求心力での引きなどであろう。
これらの機能が十分に働かなければ、いい技をつかうことができないのである。

手が十分に働くためには、末端の手先と体の中心の腰腹とを結び、腰腹で手をつかわなければならないことは云うまでもない。

手が十分に働くとか、手が上手く機能するとは、手が極限まで十分に回転したり、円く回ったり、引いたり伸ばしたりできることである。

稽古人は誰でも手をそのようにつかおうと思って技をかけているわだが、手が十分に働いてくれているのか、また、どのように動いているのかが、中々わからないものであり、見えにくいものである。

己の手の動きをよく観察できるのは、杖や木刀などの得物をつかっての素振りである。得物と体と結び、体で得物を操作するのである。得物の杖や剣を体の力で振るのではなく、得物の杖や剣の動きの邪魔をしないように振るのである。手が主導権を握っているのは、初めと最後だけで、その間は得物の動きたいよう、行きたいようにするのである。得物は極限まで伸びたり縮んだり、また回転したりするはずである。

所謂、手ぶりとして忌まれる、手で振ると、得物のそれらの動きを止めたり、断ってしまうのである。
体の指示で動きはじめたら、後は杖や剣が十分に自由に働くようにするのである。
このためには、得物を力ではなく、気持ち(心、精神)で導かなければならない。

杖や剣の素振りをすると、手や体がどのように動いているのかがよくわかる。手や体の動きを、得物の杖や剣は拡大して教えてくれるのである。
また、他人が得物を振っているのを見れば、その人の手の働きや機能が一目瞭然である。

得物をつかっての素振りで、己の手の動き、機能が見えたら、その動きを体術において、更に極限までもっていくようにすればいい。手を充分に旋回したり、出したり引いたりするのである。そうすれば、手の機能がよくなるし、技も上手くかかるようになるはずである。

杖や剣の得物を道具として使わない事が大事である。自分の体の一部としてつかい、得物の意志も尊重することである。そうすれば、得物も喜ぶし、体も喜ぶ。得物と体の一体化であり、宇宙との一体化の初歩的なはじまりとなるのだろう。