【第520回】 現代病と合気道

世の中、どんどん忙しくなっている。マクロの世界では重力波が見つかり、138億年のビッグバンへ更に近づくことができるようになったり、ミクロの世界ではスーパーコンピュータの速度が今や「京速」(「京」は、浮動小数点数演算を1秒あたり1京回おこなう処理能力)という高速になったりと、世の中の周辺が忙しくなっている。

人類の世界もスピードアップして忙しくなっていくのも、不思議ではない。それによって社会に弊害もおこすことになるが、その弊害をここで現代病とする。

しかし、周りがどんどん変わっていくから、己も変わらなければならない、ということではないはずである。合気道では、@己自身が宇宙の中心に立ち、物事を処理しなければならない A物事には陰と陽、裏と表がある、と教えられている。

従って、合気道は世の中の現象や傾向に囚われないで、極端にいえばその世の中の現象や傾向を「表」とすれば、その「裏」でやればよいと考える。

そこで、今の忙しさからくると思われる現代病と、それに対して合気道の稽古はどうあるべきか、を書いてみたいと思う。(●は現代病、★は合気道の取るべき道)

●短期決戦型:物事をやる場合、世の中は短期、つまり時間が短ければ短いほど評価されるようである。仕事も試験も短時間で片づければ、優秀であるとされる。合気道でさえも昇段が早いのを喜ぶし、1,2年の短い期間で有段を目指そうとする。
★継続的:修業の目標を持ったら、それに向かって一歩一歩近づいていく。近道やズルは厳禁である。

●結果重視:結果をすぐ出そうとする。それが高じると、ズルをしたり、不正を働くことにもなる。
★目標に到達できる保証はないが、目標に向かって進むだけである。目標に進んだ結果として、結果が出るのである。合気道は相手を倒すのではなく、理合いのプロセスの結果、相手が倒れるようにするものである。

●派手=他人を意識:他人に勝ろう、他人よりもうまいところを見せよう等、他人を意識する。そうすると、おのずから派手になっていく。
★地道:他人との闘いではなく、自分との闘いであるから、外から見れば目立たず、地味ということになる。

●デジタル思考:損か得か、いいか悪いか、のデジタル思考。白黒をはっきりさせないと満足しない。
★試行錯誤:損にも得があるし、得にも損がある。よいもの・事にも、悪いもの・事があるし、曖昧なグレーの部分もある。すぐに結論が出るものでもないので、何度も何度も試行錯誤しながら身につけていかなければならない。

●他人に依存:他人の判断や声で、ものごとを決めてしまう。他人がよいというからとか、有名人がそういったからとかが、価値基準や価値判断になって決めている。
★己の心にきく:他人のいうことや書いたことは参考にはなるが、半分は疑い、自分でその成否を決めるべきである。物事、例えば合気道の稽古を一生懸命やっていれば、己の心がささやいてくれるものだ。これはよいとか、これは駄目だとか、こうした方がよい、等とささやいてくれるのである。このささやきがあるから合気道にも上達があるし、企業家に閃めきがあって企業が成長し、また科学者には発明・発見があるのだと思う。