【第52回】 陰陽のバランス

どんなものでもバランスがとれていなければ、力が出ないし、美しくなく、人を説得できないし、感銘も与えられない。バランスとは上下左右、表裏、陰陽、中外、精神・気持ちと肉体など、対極同士が均衡していることである。

稽古での技や動きでは、体だけ動いても精神・気持ちが入っていなければバランスがとれていないし、右手に力を入れるには左手にも力を入れてバランスをとらなければならない。例えば、諸手取りや片手取りの呼吸法、片手取り四方投げなどでも、持たれている手と反対の手に力をいれてバランスをとらなければ、技は効かない。また、太刀の握り、二教の締めでも左右の力のバランスがとれていなければ効かない。

力のバランスは合気道だけではない。「能や踊り、あるいはお茶のお手前を見ても、美しいと思われるのは、反対の部分が生き、働いているからです。お点前では、抹茶茶碗に抹茶を入れ、お釜からお湯を注ぎますが、右手で持った柄杓から茶碗に湯を静かに注ぐ時には、膝においた左手にグッと力が入っているのです。」(拙著「ビジネスのための武道の知恵」)

動きとしては、ゆっくりの中にもいつでも切り替えられる速さを内蔵していなければならない。従って、速くでもゆっくりでも動くことができなければならない。よりゆっくりと、そして、より速く動ければ、動きの幅が広がることになる。しかし、ゆっくり動くのも速く動くのも、よほど注意して動かないと、相手とのむすびが切れてしまい、合気道にならない。また、強くも、あるいは弱くも、つまりソフトにも力が使えなければならないだろう。だれでもかまわず、馬鹿力でやっては相手も迷惑するだろうし、自分の稽古にもならないだろう。

合気道の根本理念は、陰陽である。一方だけを陽として使うのではなく、その対極であり、見えない陰の部分を大切にし、バランスよく修行していくべきである。