【第517回】  上達にはカス取りが必要

合気道は技を練り合って上達・精進していく武道である。上達とは、これまでできなかったことができるようになり、知らなかったことを知り、新しいことを身につけていくこと、それに、己の悪いところを取り除いていくということだと思う。

人は新しいことを覚えようとするが、己の悪いところを取り除き、改めようとはなかなかしないものである。
その理由を考えてみると、○己の悪いところはなかなか気づかない ○指摘されたり、注意されても深く考えず、ほったらかしてしまう ○本気で己を変えようとしない ○そのままやっていれば上達すると思っている、等である。

悪いところとは悪い癖といってもよいだろう。悪いとは、法律違反ということである。宇宙の条理・法則、自然に反しているということであり、不自然なのである。

この悪いところ、悪いものを、合気道ではカスとか、カスが溜まるという。長年稽古をした結果、溜まってくるものである。稽古を続けていけば、カスが溜まるということである。合気道は禊であるから、カスを取っていくことも稽古では大事なことなのである。

カスには、物質的なものと精神的なもの、目に見えるモノと見えないモノがあるだろう。稽古不足や運動不足による皮下脂肪や血管に溜まる血栓、筋肉を硬化させるコレストロールなどは物質的なカスであり、思い込み、偏見、好き嫌いなどは精神的なものであろう。

なんであれ長年一つの事をやったり続けていると、カスが溜まるものである。例えば市場経済が発展して豊かな社会ができたが、そこには貧富の格差、宗教問題などなどのカスが溜まってしまった。大手企業でも長年のカスで倒産したり、傾きかけているのがあることは、新聞やテレビで報道されている通りである。

カスを取り除かなければ、さらなる発展は難しいだろうし、場合によっては崩壊の危険性すらある。

開祖は「今日、習ったことは忘れてしまえ」など、当時は理解しがたいことをいわれていた。だがこれは、それを後生大事にしているとカスが溜まるぞ、という戒めだったのだと考える。

どんなにすばらしいと思えることを見つけ、身につけたとしても、また、教えてもらっても、それにこだわって先に進まないと、それがカスとなるかも知れないのである。

新しいことを身につけて上達していくのも大事であるが、溜まった、また溜まってくるカスを取り除くことも、上達には大事なことなのである。なぜならば、溜まったカスが上達を妨げるからである。

上達のためには、新しいものを身につけるとともに、カスを取り除いていくことも大事である。また、さらにカスが溜まらないようにするのも大事なことである。