【第515回】 塵も積もれば山となる

体は基本的に、毎日動かさなければならないものである。体を一日動かさなければ筋肉が衰え、血液の流れも悪くなり、臓器の働きも鈍くなる。若い内は2,3日体を動かさなくてもすぐに挽回するが、年を取ってくると難しくなる。

稽古においても、毎日稽古を続ければ手足に筋肉がつくだけでなく、血液の流れもよくなるし、心臓や肺などの内臓も丈夫になる。だから、稽古は毎日続けるのが原則である。

ただ若い時は元気も時間もあるので、毎日稽古することもできるだろうが、年を取ってくると、毎日、道場に通って稽古を続けるのは容易ではない。というより、不可能であろう。せいぜい週に2日とか3日ということになるのではないだろうか。

体は毎日動かさなければならないが、週に2,3回しか稽古へ行かないとなると、体は徐々に衰えることになるはずである。従って、道場に通って稽古しているのだからと、安心してはいられないのである。

週数日の道場の稽古は稽古で、一生懸命やらなければならないが、体は毎日動かさなければならない。とりわけ年を取り、高齢者になってきたら、なおさら大事になる。

毎日体を動かす運動を続けるには、若い頃のように無理してやるのではなく、できることを毎日、少しずつやることである。毎日やることが、体のためになる。それは自分の体が知っているので、体に聞けばよい。例えば腰が固いから伸ばしたいとか、ハムストリングがかたいので柔軟にしたいとか、腹筋が弱いので筋肉をつけたい等々、人によってやることが多少違っているだろう。

毎日続けるためには、習慣化することである。寝起きするのと同じようにやればよい。例えば、寝る時にストレッチ運動、腕立てなどをしたり、あるいは起床の際に横になったまま、足や足腰の上下運動、腕・足腰伸ばし運動などを2〜3分でもやるのである。

これは、毎日寝て起きるのだから忘れることはないし、サボると気持ちが悪いのでやることになるだろう。そして、その内に習慣になり、寝る・起きると同じように習慣化するはずである。

習慣化すると、同じことをやっても毎回なにか新しい発見があるものである。そして、その新たな発見は、道場での形稽古に大いに役立つのである。つまり、その毎日のちょっとした運動が、道場の鍛練稽古に結びつくわけである。

年を取ってくると、道場稽古だけでは体が衰えていくことになるのではないだろうか。それにもかかわらず若い頃の幻想で稽古をすると、体をこわすことにもなりかねない。年を取ってきたら、少しずつでも毎日できることをやり続けていくのがよいだろう。
「塵も積もれば山となる」である。