【第513回】  足づかいの事

合気道は形稽古を通して、技を錬磨し精進していく。錬磨している技には法則があるから、技をかける体も法則に則ってつかわなければならないことになる。つかう体の法則で最も根幹となるのは、足づかいの法則であると考える。足は体幹や手をのせて、移動したり、捌く主役であるからである。

また、合気道では体重を技につかわなければならない。足が動かなかったり、間違ってつかえば、体重を活かすことはできないだろう。

しかし、法則に則ってつかう足づかいは容易ではないようだ。それ故、技がうまくかからないだけでなく、体を痛めることにもなるのだが、なかなかそれに気がつかないようである。

これまで何回も足づかいの重要性など、足づかいの事について書いてきた。つまり、足は右左交互に規則正しくつかわなければならない、ということである。一教裏、入身投げ、二教裏などの最後の収め・決めのところで、この足づかいの法則を破ってしまうため技が効かないことに、多くの人は気がついてないようである。

これは合気道の陰陽の法則の教えであるが、この足づかいの法則の重要性が武道の世界で既にいわれていたのを、ここに紹介しておこう。

それは、生涯無敗を誇った剣豪宮本武蔵の言葉である。武蔵については映画や小説でイメージするだけで、本当に強かったのかと疑問視する気持ちもあった。だが、晩年武蔵が書いた『五輪の書』の「足つかひの事」の項を読んで、武蔵は本当に強かったはずだ、と信じるようになった。

『五輪の書』の水之巻「足つかひの事」には、「足のはこびやうの事。此道の大事にいはく、陰陽の足と云ふことあり。是れ肝要なり。陰陽の足とは、片足ばかり動かさぬものなり。きる時、引時、受る時までも、陰陽とて右ひだり右ひだりと踏足なり。返すがえす、片足ふむことあるべからず。能々吟味すべきものなり。」とある。

現代語訳にすると、「兵法の大切なことに『陰陽の足』という教えがある。これは当流(二天一流のこと)にとっても重要なことだ。陰陽の足使いとは、片足だけを動かしてはならないということだ。斬る時、引く時、刀を受ける時でも、陰陽の両極を交互に渡る様に、右左右左と交互に規則正しく踏んでいく。何度も言うようだが、どちらかの片足だけを中心にして、スキップやケンケンを踏むような足運びをしてはならない。良く吟味して欲しい。」というような意味になるようである。

これだけ宇宙の法則に則った体づかいを具体的に会得し、書き残した武人は、それまでいなかったのではないかと思う。宮本武蔵の境地は相当な所まで到達していたはずである。大先生の太刀捌き、足づかいと重なり、武蔵のそれが見えてくるようである。

武蔵が、足づかいは陰陽でなければならない、と書いたということは、手や息なども陰陽につかっていただろうから、武蔵は合気道でいうところの宇宙の法則・条理と一体化した剣をつかっていたはずである。

そして、この陰陽の足づかいをしなかった武蔵の挑戦者は、当然、負けてしまうことになったわけである。

大先生や宮本武蔵がいわれるように、足づかいの事に注意して稽古しなければならないだろう。