【第513回】 腰周辺筋肉

技をかけたり受け身を取ったりしながら稽古を続けていると、腰回りに筋肉がついてくるものだ。腰(臀部上部)に手を当ててみるとよくわかる。腹が出たり、ウェストが太くなったために膨らんだのとは違っている。腹も出てないし、ウェストもほとんど変わらないのに、腰回りに筋肉がつくのである。

腰周辺に筋肉がついてくると、技をかけやすくなるものだ。技は手先と腰腹で結んで、腰腹でかけるのだから、当然であろう。

腰の筋肉の重要な働きのひとつは、背骨を支え、かつバランスをとりながら背骨の自然なS字カーブを保つことにあるといわれる。このために、特に重要な筋肉は、腹筋、背筋、脊柱起立筋、大殿筋の4つだという。

さらに、骨盤を支えたり、股関節の動きを制御する役割を持つ大腿四頭筋とハムストリングスがある。それに、深層筋である腰椎と大腿骨を結ぶ腸腰筋(腸骨筋と大腰筋)もある。

これらの筋肉が太くなり強力になったことが、腰周辺に筋肉がついたということになるのではないだろうか。正確にどの筋肉がどれだけの割合で関わっているのかは分からないが、それは医師にまかせることにする。

腰回りに筋肉がついてくると、体がつかいやすく、技がかけやすくなるので、更に腰回りを鍛えたいと思うようになる。これまではあまり腰回りなど意識しないで、ただ漠然と稽古してきた結果、腰回りに筋肉がついたわけだが、今度は意識してつけていこうというわけである。

そのためにはいろいろあるだろうが、まずは体幹と脚をつなぐ筋肉(腸腰筋)を鍛えなければならない、と考える。体幹と脚は本来、密着していないので、筋肉で結んでつかわなければならない。体幹と脚をばらばらにつかわず、連動してつかうのである。

体幹と脚を密着させることを、「腰を落とす」「腰を入れる」というのである、と考える。つまり、股関節に脚の突端を押し込むようにするのである。そして息に合わせて、肩甲骨が上、下、前、後ろ、左、右に動くようにするのである。これによって、上からは見えない深層筋である腸腰筋(腸骨筋と大腰筋)が働き、強く太い筋肉ができ、腰回りも太くなっていくはずである。

前から書いているように、股関節は大事である。股関節の動きが鈍いと働かないから、関連筋肉も鈍くなり、働きが悪いことになる。そして、腰周辺筋肉まで弱く少ないことになる。

つまり、形稽古での技づかいでは、股関節を腰周辺に筋肉がつくように稽古しなければならないことになる。股関節を沈めたり、十字につかうのである。そのためには、息はイクムスビで、体や脚は陰陽でつかわなければならない。つまり、宇宙の法則に則って息も体や脚もつかわなければ、股関節もうまくつかえないのである。

股関節を鍛えるのは、立ち技だけでなく坐り技でもできるし、また、やらなければならない。その典型的な稽古は「坐技呼吸法」であろう。「坐技呼吸法」でも腰回りに筋肉をつけていくことはできるはずだ。開祖のおられた頃は立ち技の稽古よりも坐り技の稽古が多かったが、今にして思えば坐技の稽古の方が股関節が鍛えられるし、腰周辺の筋肉をつけるにも立ち技よりよいということだったのだろう。実際に「坐技呼吸法」や一教や入身投げなどを坐ってやると、股関節は柔軟になるし、腰もしっかりしてくるものである。

また、椅子に腰かけた状態でも股関節を鍛えることはできる。つまり、立っても坐っても、椅子に腰かけていても、やろうと思えば股関節を鍛えることができるし、腰周辺の筋肉をつけることもできる、ということである。