【第508回】 関節柔軟法

合気道の主な稽古は、二人で技をかけたり、受けを取り合ったりする相対稽古である。初心者のうちは道場での相対稽古で、相手がいないと稽古はできないだろうし、上達もできないものである。

しかし、高段者になっても相手がいなければ稽古ができないようでは、さらなる上達はないであろう。これまで開祖はいうに及ばず、師範の先生方や先輩を思い返してみても、これはと思った先生方や先輩は、道場での一人稽古や、道場以外での一人稽古を一生懸命にされていた方々だった。故に、本当に合気道の上達を考えるならば、一人稽古をしなければならないと考える。

私の入門当時、つまり開祖もご健在だった頃の道場では、稽古の始めなどに、「相手なしでただ一人で合気道の動きを練習する基本準備法」(「合気技法」)といわれた単独動作の稽古が頻繁に行われていた。

この単独動作の稽古には、○体の進退(継足、歩足、転回足、転換足、膝行)○一教運動 ○呼吸転換法 それに○手首関節柔軟法(「小手回し法(二教運動)」、「小手返し法(小手返し運動)」)などがあった。

この内の手首関節柔軟法は、今でも稽古の前に行われている。しかし、関節柔軟法は手首だけでなく、他の関節も柔軟にする関節柔軟法でなければならないだろう。『合気技法』で手首関節柔軟法として二つしか紹介されていないのは、紙面の関係があると同時に、あとは自分たちで研究して欲しいということであると考える。事実、筆者の植芝吉祥丸先生は、この本で説明していることはその一端であるから、あとは各自で研究して欲しい、といわれている。

宇宙の法則に則った技をつかうためには、技を生み出す身体をそのように機能するように鍛え、改善していかなければならない。カスを取り除き、強化したり、柔軟にするのである。そのためには、理合いで体をつくっていかなければならない。つまり、体をつくるためには科学しなければならないのである。科学するとは、法則性を求めることである。技を生み出していくのと同じことなのである。

体には多くの関節があるが、今回は指先から胸鎖関節までの手の関節の柔軟法を研究してみることにする。

手の関節には、手首、肘、肩、肩甲骨、胸鎖関節がある。これらの関節を柔軟にするための単独柔軟運動である。

A.先ず、片方の手だけでの柔軟運動である。
1.縦と横の運動
手を水平に上げ、手首を支点として、手先を内側と外側の方向に力を抜いて振る。手首のぶらぶら運動である。
次は、手首を支点として、手を縦にしたまま上下に振る。この方向に手先を動かすことは、ふだんあまりやらないので、稽古していないと動きにくくなる。正面打ち一教で、相手の腕をくっつけたり、つかんだり、あるいは隅落としの際には、この手の動きが大事となる。
この縦と横の動きの運動で、手首の次に、肘、そして手を上下左右につかいながら肩、肩甲骨、胸鎖関節のカスを取り、柔軟にしていく。
この縦と横の運動を、左右の手でやる。

2.円の運動
手をたらし、手首を支点にして手先をぐるぐると回すのを、左右に行う。
これを、肘、肩、肩甲骨、胸鎖関節のそれぞれを支点として、左右に行う。これがうまくできるようになると、体が軽くなり、手も自由に動いてくれるようになるから、技も効くようになる。なにしろ、技は円の動きのめぐり合わせなのである。逆にいえば、各関節のところで円に動かなければ、技にならないということである。

B.他方の手をつかっての関節柔軟法
「合気技法」にある「小手回し法」と「小手返し法」で手首のカスを取り、そして鍛えるのである。これを、気持ちと力と息でやらなければならない。イクムスビの息づかいで縦と横と十字になり、最後は息と力と気持ちが腹に収まるようにしなければ柔軟法にならないから、柔軟にはならない。

手首のあとには、肘(三教小手ひねりと肘伸ばし)、肩、肩甲骨、胸鎖関節を、気持ちと力と息で伸ばすのである。

手にはさらに指があるので、これも各関節ごとに伸ばさなければならない。指先の三つの関節が各々直角・鋭角になるように鍛えるのである。これができるようになると、握る力が強くなるし、握った拳が堅固になる。

手の関節でも弱いところ、固まっているところがないよう、見逃しがないよう、そして、硬い個所や弱い個所を鍛えるように、回数や力を調整しながら、関節を柔軟にしていくことが大事であろう。

もちろん、手以外にも関節はあるから、それらの関節も柔軟になるようにしなければならない。だが、それは単独運動しかないだろう。