【第503回】 息を通す

前回は『呼吸力と呼吸』というテーマで、呼吸について書いた。今回は「息」についてである。呼吸も息も似ているが、呼吸とは息づかいであり、息は呼吸や息づかいでつかわれるものと考える。

息は気持と体をつなげるものである、と書いてきた。頭で考えたことを体に伝え、動かしてくれるのは、息であると思う。だから、息がしっかりしていなければ、体は思うように動かないことになる。

しっかりした息とは、体中の思ったところに通るものである。息が手先まで通っていれば、体の中心からの大きい力が手先から出るだけでなく、手先が名刀のようにまっすぐで美しい姿になるはずである。だが、逆にしっかりしていなければ、なまくら刀のようにねじれたり曲がったりしてしまう。

しかし、このしっかりした息を通すのは、容易ではないようだ。初心者や多くの稽古人の手先や指先はまっすぐでなく、曲がったり縮こまったりしており、まっすぐ伸ばそうとしてもまっすぐにならないようである。

手先や指先をまっすぐ伸ばすには、息がそこまで通っていなければならない。息の通りをどこかで邪魔されると、そこまで通らないのである。

かつて本部で稽古していた頃、食事が済んだ後で、有川師範が指先までまっすぐに伸びた手を示されて、こうできるか、と訊ねられた。だが、当時はどうやっても指先はまっすぐには伸びなかったのである。そこで、なんとかまっすぐにしなければと思い、どうすればまっすぐになるか考えなければ、と思ったものである。

腰腹の力が技をかける手先まで伝わらないのは、多くの場合、肩で邪魔されていると書いてきたが、息の流れもその肩で邪魔されるといえよう。肩のところまでしか息が行かず、手先まで息が来ないのである。だから、腕、手先、指先がまっすぐにならないわけである。

肩で息の流れを通すためには、肩を貫(ぬ)かなければならない。腕を十字につかって素振りをするなどして、先ずは肩のカスを取る必要があるだろう。ここのカスが取れれば、息も貫けるようになるはずである。

息は体中を思うように流れるようにしなければならない。多くの息、強力な息を、体中に滞りなく流すのである。地から上がってくる息(気)を腰から胸まで上げ、それを胸式呼吸で取り入れ、そして、肩を通し、手先、指先に流すのである。

このような息が通った手は折れ曲がることもなく、火の息によって大きい力が出ることになる。息が通るということは、先人たちがいわれた「気が通る」に通じると考える。息の通りは自覚することができるから、思った通り、心の欲するように通すことができる。

息とは「いき」であるから、「気」と関係があると考える。合気道では「気を入れろ」とか「気でやれ」などと、気が頻繁につかわれる割には、気とは何かということが示されてない。見えないものだから仕方ないだろうが、何とか会得していかなければならないだろう。

息を通すにはもちろん、息づかい、呼吸が大事である。これを間違えればしっかりした息は出ないし、つかえない。体に息(気)を滞りなく通して、技をつかっていくようにしなければならない。