【第502回】 呼吸力と呼吸
合気道は相対で技を錬磨して精進していく武道であるが、その主な稽古は、宇宙の法則である技を身につけていくことと、そして、呼吸力の養成であると考える。宇宙の営みであり、条理である技と強力な呼吸力で技をつかえば、技がきくことになるわけである。
この内、今回は呼吸力に関して研究してみることにする。呼吸力とは、これまで書いてきたように、簡単にいえば、遠心力と求心力を兼ね備えた力であると考えている。もう少し詳しくいえば、八力(動、静、解、疑、強、弱、合、分)を兼ね備えた力ということになる。
この呼吸力は誰でも大なり小なり持っているはずだが、そのままでは武道の力としてはつかえないはずである。呼吸力を分解して解釈すれば、呼吸の力とか、呼吸からの力、ということになるだろう。呼吸は誰でもやっているわけだが、一般人の呼吸の力、呼吸からの力では、武道として通用するような力にはならない。
これまでも、武道としてつかえるための呼吸をいくつか書いてきた。
- 縦と横の呼吸があり、縦は腹式呼吸、横は胸式呼吸をつかわなければならない。呼吸も縦と横の十字があり、そして十字につかわなければならない。
- 呼吸はイクムスビで一つの技の形(例えば、正面打ち一教等)をおさめなければならない。イーと吐いて相手に接し、クーと吸って相手を導き、ムーと吐いて相手を制し、スーと相手から離れて、ビ・イーと吐きながら相手に接するのである。ここでは、吐く時は縦の腹式呼吸、吸う時は横の胸式呼吸をつかわなければならない。
- 横の胸式呼吸により吸う息は「火」であり、大きい力がある。ちなみに、縦の腹式呼吸になる吐く息は「火」を消す「水」であるので、横の胸式呼吸の吸う息に大きい力がある。
- 呼吸、つまり息が、自分がこうしたい、ああ動きたいという気持ちとそれに従って動く体をつなげてくれる。従って、呼吸がしっかりしていなければ、体は思ったように動いてくれないことになる、等々である。
このような呼吸、つまり息づかいで形稽古をしていけば、呼吸力がつくだろうと書いてきた。これはこれで引き続き稽古していかなければならないが、さらなる呼吸力養成法があることがわかってきたので紹介しよう。
開祖の教えでは、『武産合気』(P.51)に次のようにある。「息を吸いこむ折には只ひくのではなく、全部己の腹中に吸収する。そして、一元の神の気をはくのです」。
まず大事なことは、ただ息を吸うのではなく、胸いっぱいに息(空気)を入れる、ということである。通常の息づかいではなく、胸式呼吸で、胸を大きく開き、少しでも多く息が入るようにするのである。これで、胸が厚く大きくもなるはずである。
次に、この吸い込んだ横の息を、縦に腹式呼吸で腹に向かって吐き、すべて腹の中に収める。これで、腹も大きく柔軟になるだろう。
そして、その息がすべて腹に吸収されたままで、さらに縦の息を吐き続けると、縦の天地の気と一体となり、大きい力(呼吸力)が出る。それが、ここで開祖が言われている「一元の神の気をはく」ではないかと考える。
この「一元の神の気をはく」は、通常の形稽古でも稽古できるが、この感覚を味わうには、剣の素振りや腕の素振りがよいだろう。
息をいれながら剣や腕を振り上げたら、今度は息を吐きながら脇を開いて肩を横にずらし、息を入れながら、さらに剣や手を上げていく(できるのならここまで息を入れ続けてもいい)。ここで更に、思い切り息を吸うのである。そして、剣や手はそのままで、先ず吸った息を腹に落とし、この腹の息を天と地に貫きながら、剣や手を振り下ろすのである。これは、相当な力が出るので、「一元の神の気をはく」という気持ちになれるだろう。これを、毎日稽古すればよい。
このような呼吸からの力の呼吸力も、錬磨しなければならならないだろう。
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