【第501回】 体を柔らかくする

人の体はある程度年を取ってくると、だんだん体が硬くなってくるものだ。だが、その速度は遅いようで、日に日に硬くなっていっても気がつかないし、あるいは無視してしまうようである。

いずれにしても、成人の体は硬くなるものである。たとえ合気道の稽古をやっていても、体は硬くなるだろう。稽古すれば必ず体は柔らかくなる、ということはない。体を柔らかくしたいなら、体が柔らかくなるように、先ずは意識して理合いの稽古をしなければならない。

合気道の稽古をしていく上では、体が柔らかいのに越したことはない。体を柔らかくするための理由としては、@体が軽く感じる A体からの力が出る B体が成長する D息が大きくつかえる E息で体が動く、等であると思う。

稽古しているのに体が柔らかくならないのには、主な理由がふたつあるように思える。
一つ目は呼吸で、息を吐いて技をかけようとすることである。息を吐くと、体は硬くなってしまうものである。
二つ目は、求心力だけで技をかけようとすることである。相手を押しつけたり引っ張ったりして、一方的な力で技をかけようとするのである。

体を柔らかくするためには、このふたつを変えていかなければならないだろう。まずは、一つ目の呼吸である。吐く息に頼るのではなく、合気道の正しい息づかいを身につけていくことである。技は、イクムスビの息づかいでかけなければならない。

特に、クーの引く息が大事である。この引く息は横の呼吸で、胸式呼吸であるから、大きくも小さくも、また早くも遅くも、自在にできる呼吸であり、「火」の呼吸という。この胸式呼吸をする時に、体は柔らかくなるものである。

次に、求心力だけでなく、遠心力をつかわなければならない。遠心力とは外方向へ働く、体から出ていく力である。この遠心力は呼吸法などで身につけていけばよいが、一人稽古で稽古するのがよい。

そのためには、腕を遠心力が出るように振るのもよいし、何か重い物を持って腕を振るのもよい。鍛錬棒は少し重くて場所もいるが、これを振るのもよいだろう。ただし、鍛錬棒などを振る際には、息に合わせ、体の表(外側)に力と気を通すよう、そして、手を十字に、剣のように刃筋が通るような円運動で振ることである。もちろん、手も足も陰陽につかうことが大事である。

この遠心力運動でさらに体を柔らかくしたいならば、体の各部位をそれぞれに鍛えればよい。鍛錬棒などを持って、手首、肘、肩、胸鎖関節、腰、膝、足首、足底(踵、小指球、母指球、指先)を支点として、遠心力が出るように振るのである。すると、その支点となる関節や両側の筋肉が柔軟になる。

遠心力の養成は、ふだんの稽古でもやっているはずである。先人や先輩は、ふだんの形稽古で身につけていたが、それにはまず受け身で身につけたのだろう。投げてもらいながら、力まずがんばらずに、息に合わせて体を伸ばしながら受けを取るのである。それで遠心力を身につけ、そして、その感覚で遠心力を出すように技をつかっていたのである。

なにしろ、先人たちは強かった。あの強い力は、柔らかい体から出る力であり、遠心力の効いた呼吸力だったのだと思う。