【第492回】  ひびきで技を生み出すために

「合気道の思想と技」の第489回「本当の合気の力を出すために」には、「言霊と肉体の一体化ができれば、偉大な力、つまり、本当の合気の力が出る、と開祖は保証して下さっている」と書いた。

次は、合気道の本当の力を出すためには、言霊と肉体をどのように一体化してつかわなければならないか、ということになる。

先ずは、言霊とは何か、を研究する必要があるだろう。合気道の教えでは、言霊を次のようであるという。

とすると、合気の本当の力を出すためには、この言霊を肉体と一体化してつかわなければならないことになる。

また、合気は禊のわざであるが、そのためにも言霊の響きが必要である、といわれる。

それでは、宇宙組織の響きである言霊をいかに己に取り入れるか、ということになる。マンガに描くとすれば、頭にアンテナでも掲げれば宇宙からの響きが伝わってきて、己がその響きに同調する、ということにもなるだろうが、それでは現実的ではない。科学的に解決していかなければならない。

つまりは、ご自身が体験された開祖の教えに従えばよいのである。だが、まずはその前提としていくつかの事を理解し、また、信じなければならない。

一つは、宇宙と人というものは、ともに造化器官であることを知り、全大宇宙と己とは同じである、ということ。
二つ目は、宇宙と己は同じということから、宇宙と己は交流が可能であり、交流しなければならないということ。

つまり、言霊は宇宙からのものと、己からのものがあり、宇宙から己に、また、己から宇宙へ響き合う、ということである。

宇宙の言霊には、万有万物を生成し、営み、働かしめる言霊と、己が発する言霊とがあるが、宇宙と己の言霊がそれぞれに響き合うようにしなければならない。そうなれば、業・技の発兆を起こし、技を湧出することができる、というのである。

開祖は、技を湧出するために天地の呼吸に合わせて、声と心と拍子を一致させ、言霊を生み出さなければならない、といわれる。業(技)の発兆を導く血潮が言霊、ともいわれているから、血沸き、肉躍るようになるように、無声の声と集中した心と無駄のない拍子で、技をつかうのである。

さらに、この言霊とは己の心の響きであるが、「己の心のひびきを、五音、五感、五臓、五体の順序に、自己の玉の緒の動きを、ことごとく天地に響かせ、つらぬくようにしなければならない」(「合気真髄」)のである。

己の心の響きを、五音の唇音・舌音・歯音・牙音・喉音、五感の目・耳・舌・鼻・皮膚、五臓の・肝・心・脾・肺・腎、五体の頭・首・胸・手・足を天地に響かせ、己の魂を天地に貫くようにしなければならないのである。

開祖は「人の動きはすべて言霊の妙用によって動いているのです。自分が実際に自己を眺めれば音感の響きで判ります」といわれ、己をじっくり眺めれば、心の響きは判ると保証されている。

また、「合気道は音感のひびきの中に生れて来る。つまり音のひびきによって技は湧出して来る」ともいわれているのである。技は、言霊の響きで生み出されるのである。言霊で肉体をつかって技をかければ、本当の合気の力が出るはずである。

「大いにまず自己の心を練り、念の活力を研ぎ、身心統一に専心し、ひびきの土台を養成するよう」と、開祖はいわれる。まずは、ひびきの土台をつくることから始めるのがよいのだろう。