【第488回】  脳の活性化

最近公表された日本人の平均寿命は、男性が80.50才、女性は86.83才である。昔いわれた「人生50年」とは、だいぶ違ってきた。さらに、100才以上の超高齢者も5万人以上いるとのことである。

しかし、100才以上の方々や平均寿命以上の方々の多くは、体が動かなかったり、頭が思うように働いてくれない、などの問題を抱えておられるようだ。足腰が悪くて歩けなかったり、物忘れをしたり、自分の気持ちを制御できない、などということもある。

平均寿命が延びて、100才以上まで生きられるようになったのは、人間の希望であり、その結果であるだろう。人は少しでも豊かになろう、楽したいと願ってきたし、今も願っている。この豊かさと楽さも、長生きの原動力のはずである。つまり、豊かになり、楽ができるようになった結果、長生きをすることになったわけである。

しかし、残念ながら、食べること、着ること、住むことも満足にできず、今ほど豊かでなかった時代、マイカーもほとんどなく、交通機関もそれほど普及してなくて、どこまでも足で歩かなければならなかったり、重い物を持ち上げたり運搬するための重機もなく、人力に頼っていた時代には無かったような病気や問題が、今、出現しているのである。例えば、寝たきり老人、認知症、不眠症、自律神経失調症・・・である。

これらの負の現象を、合気道的に解釈すれば、平均寿命が延びるにあたっての負の現象の「カス」ということになる。豊かになり、楽をするようになったために、「カス」が溜まったのである。

それでは、溜まった「カス」を取ったり、「カス」が溜まらないようにするにはどうすればよいか、ということになる。これも、合気道的にいえば、「禊(みそぎ)」が必要ということになる。つまり、体と頭の禊である。体は手足と胴体などの五体であり、頭とは脳であり、心である。心とは脳機能によって動くといわれる。

体を禊ぐとは、体の節々の関節をほぐし、筋肉を柔軟にし、血液をきれいにし、内臓の働きと手足の働きをよくすることである。合気道の場合は、相対の形稽古で技をかけたり、受けを取ることによって、体がほぐれるし、汗をかいて血液の流れもよくなり、内臓や手足の働きもよくなる。また、六根の穢れを淨めるので、禊になるわけである。

次に、頭の禊である。脳と心のカス取りである。世間では脳の活性化がいわれていて、そのためには、例えば異なることを同時にやるとよい、等といわれている。この観点からも、合気道では脳の活性化をしていることになるだろう。

例えば、脳機能によって活動する心で、思ったことを手足に指示し、手足の心を脳が受け取るなど、心と手足のキャッチボールがされている。また、己の心と相手の心を結び、その心と体を導いて技をつかう。脳、心と己の手足、そして、相手との心と体を、同時に働かしているのである。

合気道の稽古においては、相手に技をかけたり、受けを取る際に、現実に見える顕界を見ると同時に、見えない幽界や神界にも入って遊ぶというわけで、見える世界と見えない世界を同時に体験することになる。ちなみに、合気道では「幽界はミソギの場であり、現界での罪・汚れを消し、執着を捨て、想念転換し、悟ることにより上の段に昇り、最上段に達した魂は神の許しが出て霊界に上ることができる」といわれているから、幽界に入ることが禊ぎになることになろう。

また、合気道では「過去―現在―未来は宇宙生命の変化の道筋で、すべて自己の体内にある」との教えがある。この教えに従って稽古しているので、現在の稽古は、過去とつながり、未来につながるように、超次元での稽古をしているわけである。

脳の活性化がどれくらいできるのか、また、何歳まで心も体も健康で長生きできるのか、は次の三つの条件のもとにあるように思える。

一つ、生きる張り合いをもつ。生きる目標、稽古の目標などを持つことである。生きる張り合い、目標があるから、健康で長生きしたいと思うし、できるのである。

二つ、生きる張り合いのもの、目標を一所懸命にやることである。稽古でもそうだが、ただやっていればよいということではない。

三つ、上の一所懸命と関係するが、緊張が必要である。緊張するためには、昨日より今日がよくなるように心がけることである。体と心が緊張しないようでは、成果が上がらないだけではなく、長続きしないだろう。

脳と体はなかよく結びついているから、脳が働らかなくなれば、体も動かなくなってくる。その逆に、体が動かなくなってくると、頭も働らかなくなることになる。脳だけでなく、体の活性化も必要である。合気道は、その両方を活性化する最適なものといえよう。