【第483回】 足の爪先

合気道のすばらしいことの一つとして、体全部をつかい、体全体を鍛える、というのがある。だから、合気道は合気道だけでなく、すべてのスポーツ、踊りなどの芸能に通じており、役立つはずである。

なぜならば、合気道は宇宙の営みを形にする技を錬磨しているからであり、それは誰もが求めているはずだからである。

開祖の時代の道場へは、剣道、柔道、空手など他の武道界だけでなく、スポーツ界、芸能界等々からも、おおぜい稽古に来られていた。私も入門して間もない頃に、アメリカから来たダンサーに受け身や転換法などの手ほどきをさせられたことがある。

ダンサーはプロで、大柄な男性であったが、まだ白帯だった私のいうことを聞いて、熱心に稽古していた。一日だけの稽古だったようだが、来日を機に忙しい時間を割いて稽古に来たようだ。

さて、合気道では、技を練り、よい技をつかうためには、手先まで気を通し、力を流さなければならない。つまり、爪先、指先、手の平がまっすぐにならなければ、力が指先まで伝わらないのである。肩先から指先まで、刀のようにまっすぐにならなければならない。

手先は、まっすぐにならないまでも、多くの稽古人は注意していることだろう。しかし、足の指先まではなかなか気が回らないようである。だが、足先も手先同様に大事であり、鍛えなければならない。手先同様に、足の爪先にも力を通さなければならないのである。

歩を進めて、体の方向を決めるのは、足の爪先である。爪先がしっかりしていなければ、体重をうまく支えられないし、体の方向を保ったり、変えることもスムーズにいかないだろう。爪先を使わなかったり、爪先に十分強さがなくて機能が不十分だと、他の箇所をひねって使うことになって技が効かないだけでなく、足首や膝、腰を痛めることにもなる。

一般的には、六方、十字、撞木で歩を進めるので、母指球から親指に体重がかかり、体重が貫けるが、一教、とりわけ正面打ち一教では、踵から小指球・母指球を経て、5本の爪先、そして小指球・小指に体重がかかり、貫けていく。

一教では、特にこの足の爪先の働きが重要になる。その理由の一つに、他のほとんどの型が母指球から親指の方向の内回転であるのに対して、一教は小指球・小指の方向の外回転なので、難しいのである。これが、一教が極意技である、と考える理由のひとつでもある。

かつて本部で教えておられた有川師範がよくいわれていたこととして、一般的には踵から着地して進むが、入身投げでは爪先から着地するのである。爪先で着地するから、入身から即、転換ができるのである。

足の爪先を鍛え、自由な転換ができるように、爪先も鍛えなければならない。