【第480回】 腰も十字に(続)

第476回で、「腰も十字に」を書いた。手や足だけでなく、腰も十字につかわなければ、技はうまくかからないし、体を壊してしまうと書いた。

しかし、腰を十字につかうのはそう簡単ではないだろう。腰を十字につかうためには体をつかう法則があり、その法則に則らないと技ができないからである。

例えば、足を右、左と、規則正しく、陰陽につかう。同じように、手も右、左、陰陽につかう。そして、手と足を共に右、左と、規則正しく、陰陽でつかう。手も足も、そして息も、縦横の十字でつかわなければならないのである。この法則に一つでも違反すれば、腰を十字につかうことは不可能であると思う。

腰を十字につかう、あるいは腰が十字になる、ということを改めて説明しておくと、前足の爪先方向への縦の線と、腹の面の横の線が十字になることである。例えば、入身投げで自分の腕が相手の首にぶつかってしまうのは、腰を十字に返していない、といえる。

ちなみに、腰と腹は一体で、支点の腰の用をするのが腹、と考える。つまり、腰を十字につかうとは、腹を十字につかうことにもなるわけである。

前述のように手足を陰陽と十字につかえば、腰を十字につかうことができるであろう。だが、正確には完全な十字になっていないのではないだろうか。足先の方向線に対して、腹の角度は90度ではなく、その半分の45度ぐらいしか返っていないはずである。これでは、受けの相手を自分の円の中に完全に取り込むことができないから、完全に90度の十字にしなければならない。それを可能にしてくれるのは爪先であり、母指球であり、腰である。

これまでは、腹を十字に返すために、踵から体重を小指球、そして母指球と移動し、反対の足に移動しながら腹を十字に返していた。しかしこれでは、前述のように90度は返らず、せいぜいその半分の45度ぐらいしか返らない筈である。

残りの45度をさらに返さなければならないのだが、母指球に移動してきた体重をそのまま横に移動しながら腹を返すのではなく、爪先に体重をかけ、下に力を移し、そこから母指球を支点として左に、または右に、または内あるいは外に腹を返すと、残りの45度が返り、合計で90度の直角、十字になる。

ここで注意しなければならないのは、まず体重がその爪先に真上から落ちるようにすること、そして、母指球を支点として腹を返す方向に足先を変えていくが、それを腰をつかってやることである。そのためには、腰が残らないように歩を進めなければならない。

人の体は本当によくできているし、摩訶不思議である。また、合気道も摩訶不思議である。摩訶不思議にできている体を最大限に活用するように、また、活用しなければならないようにできているのである。おそらく、人間の体の摩訶不思議を追及しているのは、合気道をおいて他にないだろう。だから、過っての開祖のもとに、合気道に本来なら関係のない剣道・弓道・居合道界、相撲・野球・レスリングなどのスポーツ界や、日本舞踊や西洋ダンス界などの方々が、合気道に魅せられて稽古に通われたのだと思う。

体の研究も、合気道のためだけでなく、他の武道、スポーツ、芸や、人類のためにも、際限なく続けられなければならないだろう。