【第475回】  摩擦連行作用を生じさせる

第413回では、「摩擦連行作用」について書いた。それには、摩擦連行作用を「螺旋で体と息をつかうと、特に力を込めなくとも、相手がそれに連れて舞い上がり、舞い下りる、作用・働き」であり、また「摩擦とは、力を込めるのではなく、いわゆる天之浮橋に立ってという状態、つまり押すでもなく引くでもない触れ合いで技をつかう」と書いた。

前回は、息とこころを主体にして摩擦連行作用を生じさせることを書いたが、今回は、魄に主体を置いての摩擦連行作用と、それを生じさせるための研究をしてみたいと思う。

再度書くが、「摩擦連行作用を生じさすことが、できてこそ、合気の真髄を把握することができるのである。」と開祖はいわれている。裏を返せば、摩擦連行作用を生じさせることができなければ、合気の真髄は把握できない、ということであるから、なんとしても摩擦連行作用を生じさせるようにならなければならないのである。

まず、この摩擦連行作用の言葉の意味を、合気道として確認しなければならない。技をつかう上で、「摩擦」とは押したり引いたりして、相手を直接的に強引に導くのではなく、相手の接点をくっつけ、擦るよう、滑るように手をつかうことである。そして、その結果、相手が己と一体となり、導かれることが「連行」であり、そのような「作用」が摩擦連行作用ということだ、と考える。

合気道の技は、相手の手や体を押したり、引っ張ったりすることではないはずである。だから、正面打ち一教でも入身投げでも二教の裏でも、左右の手は摩擦連行作用でつかわなければならない。握り込んでしまうと、技は効かないものである。かつて先輩たちからは、相手の手は握り込まずに滑らせよ、と教わった。

しかしながら、摩擦連行作用で手や体をつかう、つまり摩擦連行作用を生じるようにするのは、そう簡単ではないだろう。それは、初心者や子供たちが握り込むとか、押したり引っ張ったりするのをやっているように、人間の本能だからである。従って、この本能を消してしまうもっと強力なものを、身につけなければならないのである。

まずは、先述の第413回「摩擦連行作用」で書いたように、息とこころで摩擦連行作用を生じさせなければならない。そのためには、手足腰など体の縦と、横の十字、息の十字、手と足の陰陽の組み合わせなど、宇宙の条理に則った体のつかい方をしなければならない。

次に、法則に則った手をつかえば、それによって相手の手や体はくっつくから、その結びを切らないよう、相手との接点から離れないよう、また、必ず接点をつくり移動しながら、摩擦するように円くつかっていくわけである。これで、この摩擦の感覚が手で得られるはずである。

入身投げ、天地投げ、呼吸法などは、それが身につきやすいだろう。また、二教でも四方投げでも、摩擦連行作用が生じるはずである。

この摩擦連行作用が生じるように稽古するには、剣の素振りや杖の素振りがよいだろう。剣の素振りでもできるが、杖の素振りは身につきやすいだろう。

また、摩擦連行作用が生じるように鍛錬したり、その感覚を身につけやすいのは転換法であろう。持たせた手を、その接点を動かさず、縦から横に返しながら転換するのである。相手の持っている手を摩擦するように返すと、相手が飛び出してくるはずである。

この転換法で摩擦連行作用が生じるようになると、基本の形稽古でもそれができるようになるだろう。

さらに、この転換法ができるようになると、相手に手をつかませなくても、相手の手に触っているだけで、転換して摩擦連行作用が生じるようになるのである。つまり、相手が手をしっかりつかもうが、さわっているだけであろうが、摩擦連行作用が生じるようになる。そのためには、天の浮橋に立たなければならないし、手と腰腹を結び、腰腹で息に合わせ、こころで手をつかわなければならない、など難しいことが多い。まずは、相手にしっかり握らせることが、このための稽古となるだろう。

相手の手の上に手をちょっと置いて触るだけで、摩擦連行作用が生じるようになれば、つぎは手や体に触れなくとも、摩擦連行作用が生じるようになるだろう。いわゆる気持ち(気)で摩擦連行作用が生じるようになるのである。この段階になると、合気道の摩訶不思議が身につくようになる、と考える。

この摩擦連行作用が生じるようになると、合気道のすばらしさやおもしろさがさらに増すはずである。

摩擦連行作用が生じるためにも、やることはまだまだある。やるべきことを一つ一つ積み重ねて、稽古していかなければならない。