【第46回】 道場は別世界

合気道の道場にはいろいろな人が稽古にくる。老若男女、勤め人、学生、年金受給者や主婦などである。かれらは道場の外では仕事や勉学や家事などで頑張っている。そして時間をやり繰りして道場にきているのだ。道場には世界が違い、立場が違う人たちが集まって、共に稽古をしている。

道場にくるにあたって、会社や学校や家庭などでいろいろな事があり、それが頭に残ったまま、どうしても頭から離れずに引きずってくることもあるだろう。うれしいこともあろうし、腹の立つようなこともあるだろう。しかし、それが頭に残っていては、いい稽古はできない。ましてや外での出来事を道場の中で話したりすると、自分だけでなく周りの人たちの稽古の集中を妨げる。道場は社交場ではない。稽古は、いかに自分を合気道に集中させ、自分の感覚を鋭敏にし、どれだけ深く入っていけるかが大事である。道場の外での現実の事柄が頭にあっては、それが難しくなる。

合気道の世界は、現実の世界と違う別世界なのだ。顕界ではなく、幽界ということができよう。幽界はミソギの世界ともいわれる。顕界での雑事、争い、問題を祓い清める場である。

現実の世界、顕界の雑事を道場内に持ち込まないためには、まず強い意志が必要である。現実の世界とは違う、別世界の道場で稽古をするということである。次に、現実世界から別世界に入るための儀式をしっかりやることである。道場に入るときの「礼」をしっかりすることである。それから気持ちを静め、自分の感覚を研ぎ澄ませ、技を通してどんどん深く入っていくことだ。顕界での他者との戦いではなく、自分との戦い、真の戦いをするのである。

道場は、会社が大きいとか、役職が上とか、経済的に恵まれているか恵まれていないか等とは全然関係のない世界、幽界であり、相手より強いとか弱いとかいうことも意味のない場である。道場で大切なことは、稽古でどれだけ合気道に深く入り込めたか、どれだけ「別世界で遊べたか」である。