【第450回】 膝の痛み

合気道の道場稽古に長年通っているが、最近は膝を痛めて、正坐もできない稽古人が増えているように思える。稽古の仕方や体のつかい方が悪いために膝を痛めるのかと考えたが、どうやらそれ以前の段階で痛めているようだ。つまり、日常生活で膝を痛めており、稽古で加速しているのではないだろうか。

膝を痛める人は高齢者になるほど多く、東大の22世紀医療センターのコホート研究によれば、男性の場合50歳以上の44.6%、840万人、女性の場合50歳以上の66.0%、1560万人になると報告されている。

つまり、合気道をやっているからとか、スポーツをやっているから膝を痛める、ということではなく、年を取れば50歳以上の大体二人に一人は膝が痛くなるということである。

しかし、江戸時代や明治時代、それに我々が子供だった頃や、稽古を始めた頃(昭和36年、1961年)には、膝を痛めるトラブルはずっと少なかったようだ。また、大地を主に素足で歩行するマサイ族などにも、膝のトラブルはあまりない、といわれる。

50歳以上の方でも、二人に一人は膝のトラブルはないわけだし、また、合気道の稽古をしている人にも膝を痛める人もいるが、痛めない人もいるわけだから、膝を痛める、痛めないには何かその理由があるはずである。

膝の痛みのダメージは年を取るに従って増えていくと思われるから、そこには何か法則のようなものがあるはずである。

すわる文化のない外国人には当てはまらないかもしれないが、日本で街を歩いている人を見ると、足底の外側、つまり小指球側に重心がかかっている人が、高齢者には多いようである。一方、子供や若者は足底の内側、母指球(親指の下側)に重心をかけて歩いている。つまり、年を取るにつれて、足底の外側、脚の外側に体重がかかるようになり、そのために、脚が外側に開きがちになるようだ。

脚の外側に力がかかっていくにつれて、脚の内側の筋肉は衰える。すると、腰の筋肉のそれまでの正常なバランスが崩れて、それが膝に影響するのである。

相対で技の稽古をする合気道の稽古では、相当な力が足の小指球側にもかかるので、膝にも大きい力が加わることになる。特に、小指球の対照にある膝の内側のところでは、ダメージが大きくなる。

さらに、膝へのダメージを大きくするものの一つに、胡坐(あぐら)があるようだ。胡坐も、脚の外側に力がかかるからでる。できるだけ胡坐をかかないように、椅子にかけるとか、正座をするようにするのがよいだろう。少なくとも、道場では正座を心がけるのがよいと考える。膝が悪くなってからでは正座もできなくなるから、元気な内からはじめなければならない。

膝を痛めないように、そして、もし痛めたら膝を直すために、どのようにすればよいか、合気道家としての立場から書いてみよう。

まず、脚の外側に体重が逃げてしまわないよう、内側に集まるように、脚の母指球に力がかかるように歩くことである。はじめは、踵(かかと)、小指球、そして母指球と体重をあおって、母指球に力をかけるのである。そして、踵と母指球を結んだ線上に歩を進めるようにする。これは、お能の歩き方である。

さらに、一直線上を両母指球で(つまり、つま先で)交互に進めれば、内股が鍛えられ、体重は母指球に集中するはずである。昔の花魁(おいらん)道中(写真)の歩き方はこれではなかったかと思う。(膝痛の花魁など聞いたことがないし、想像できない)

次に、母指球に力を集める方法として、内股を締める簡単な鍛錬法を紹介する。まず仰向けに寝て、足首を20センチほど離す。そして、脚をのばしたまま、親指(母指球)あたりが合うように、両足をゆっくり合わせていく運動を繰り返す。就寝前や寝起きに、毎日10回ぐらいやるとよい。

合気道家としては、稽古においても膝にトラブルを起こさないように注意して稽古しなければならない。稽古して膝を痛めては、稽古の意味がないだろう。

そのためには、技をかけたり受けをとる時に、日常生活と同様、脚・足の外側に力や体重をかけないことである。できるだけ内側に力を集めるようにしなければならない。そのため、踵から着地し、足をあおって母指球に体重をかけるようにすればよい。

さらに、体の表(背中側)に力を流し、その表をつかって技をかけることである。体の裏(腹側)をつかうと、技は効かないし、膝に負担がかかるので、膝を痛めることになるのである。

また、体操のときも、稽古のときも、膝頭がつま先より前にでないようにしなければならない。膝頭がつま先から先に出るような屈伸運動をしていると、膝を痛めること間違いなしである。膝を痛めないためには、稽古にも注意しなければならないのである。

現代では靴の普及によって、指先の力を抜き、靴に体重をゆだねて、足裏全体で靴を持ち上げる歩き方が習慣になっているようである。たまには下駄や草履をはいて歩くと、母指球が鍛えられてよい。さらに素足になるのもよいが、その意味では合気道は素足で稽古するのでよいだろう。

50歳を過ぎれば、日常生活ですでに膝を痛めてしまっているか、痛める可能性があるわけで、合気道の稽古を始めたり、続ける場合には、稽古は諸刃の剣となる。

稽古の仕方、体のつかい方によって、膝を痛めることを加速させる場合もあるだろう。痛みを予防したり、その痛みを取り除くことができるように、日頃の心がけが必要であろう。合気道の稽古によって、膝のトラブルのない稽古と日常生活を送れるようにしたいものである。