【第45回】 文化

小説家の池波正太郎氏は、「大人の男が遊ばない国の文化は駄目になる」といっている。そうなると、今の日本を考えただけでも心配になる。大人だけでなく、若者も子どもまで、どんどん遊びが少なくなってきていると思えるからだ。大人は仕事以外のことに関心を持てないし、子どもは学校の成績がよくなるもの以外にあまり関心を示さない。関心があるのは漫画とゲームぐらいであろう。

世の中ますます忙しなくなってきているので、文化に費やす時間もお金もタイトになってきている。そんな中で、合気道を稽古できるのは恵まれているといえる。合気道の稽古ができるためには、時間とお金に余裕がなければならないだけでなく、体力がなければならないだろうし、また、いい道場や先生との出会いという運もなければならない。

茶道や華道に茶道文化、華道文化とあるように、合気道にも合気道文化がなくてはならないだろう。文化とは「学問・芸術・宗教・道徳など、主として精神的活動から生み出されたもの」という定義からすれば、合気道はまさしく文化であるといえる。合気道の目的は「気育、知育、徳育、体育、常識の涵養」であり、「真善美の探求」でもある。従って、道場だけで学べるものではなく、別の文化や世界も知らなければならないし、学ばなければならない。

人は一人では生きられず、一緒に共同して生きているが、モノが豊かになった時点から、お金や物質を取り合い、それを比較し合って生きるようになった。今の時代はお金が中心の物質文明であり、文化はその陰にかくされているだけでなく、文化までお金で評価されている。昔は成金とか言われて、お金があっても文化のないものは尊敬されなかったが、今はお金さえあればいいと、手段を選ばず金を手に入れようとする者が増えるばかりだ。

ひところ若い夫婦の離婚が増えて話題になったが、最近では熟年離婚が増加している。建築家の安藤忠雄氏は、「熟年離婚の原因は夫婦の"文化格差"」であると述べている。確かに、熟年や高齢者だけではなく、若者を見ても、男性の方が女性に比べて文化に対する関心が薄いと思う。熟年離婚にならないためにも、高齢者は合気道文化を身につけ、そして合気道を機軸にして他の文化を取り入れていくのがいいだろう。合気道はお金にはならないが、文化が身につく。その恩恵は大きい。