【第446回】 横の呼吸

合気道は、争わない武道である。争わないという意味は、一つには勝負、勝敗を決めるものではないということ、二つ目は相対での技の錬磨において、相手とぶつかったり、押したり、引いたりして争わないこと、そして三つ目は、己のつかう技が宇宙の営み・条理の理合いに反する、つまり理合いと争うようなことはしない、と考える。

一つ目の争いを避けるのは容易である。試合をしなければよいのであり、つまり勝負をしなければよい。合気道同人は、皆そうしているはずである。

しかし、二つ目の稽古相手と争わないというのは、時として難しいだろう。お互いに一生懸命に稽古していれば、がんばり合ったり、力が入り過ぎることもあるから、時には争いになる。とりわけ若いうちは、稽古での争いは起きやすいものだろう。

この二つ目の争いを無くす唯一の方法は、次の三つ目の争いを無くすことである。すなわち、理合いの合気道をすることである。

理合いの稽古をするためには、まず、技には法則性があることを認知しなければならない。合気道の技は、宇宙の法則を形にしたものである、と開祖はいわれている。法則のある技をつかうには、体も息も法則に従い、理合いでつかわなければならない。

合気道の基本原理の一つに、十字というものがある。だから、合気道は十字道ともいうのである。合気道の技は、体を十字につかわないと効かないことを、これまでいろいろ書いてきたが、息も十字につかわないと、技は効かないのである。

息とは呼吸であるが、呼吸には縦の呼吸と横の呼吸がある。一般的に、武道では腹を重視することもあって、腹式呼吸で技をつかう傾向にある。しかし、合気道でこの腹式呼吸だけで技をつかうと、相手を押しつけたり、つまったり、弾いてしまうことになる。

これはつまり、腹式呼吸の縦の呼吸だけでは、合気道の技はつかえないということである。つまり、横の呼吸である胸式呼吸もつかわなければならないのである。
この横の胸式呼吸をつかうことによって、遠心力が出、相手を吸収し、相手を己の円に取り入れることができるようになるし、そして、己の体が地にしっかりと収まるのである。

横の胸式呼吸は引く息である。これは、である。息をひく折には四角になり、四角は火の形を示すものであるというから、激しいエネルギーと安定性をもたらす。

この横の呼吸がうまくつかえれば、例えば半身半立ちの四方投げ、二教裏などで驚くほどうまく効くようになる。逆にいうと、横の呼吸ができなければ、半身半立ちの四方投げ、二教裏などでは効かないことになる。

もちろん横の呼吸は、横の呼吸だけではうまく機能しないし、技の効き目もない。縦の呼吸だけでも駄目であるのと同じである。縦と横が十字になるように、縦横両方をつかわなければならない。縦、横、縦とつかうのである。

縦の呼吸は、これまで散々やってきたわけで、問題ないだろうが、横の呼吸には修練がいるだろう。横の呼吸とは、胸式で息を引くのだが、初めのうちはどうしても腹式になってしまったり、腹を持ち上げるような息づかいになって、体が浮き上がることになってしまうはずだ。

それに、それまで縦の腹式呼吸でやってきたのを、横の胸式呼吸に変えると、相手に返されないかなどと不安が起こるだろう。

横の呼吸の重要さを信じ、宇宙の理合いを信じ、そして自分を信じで、稽古していくことである。