【第443回】 単独動作

合気道は相対で技をかけ合い、受け身を取りながら稽古し、精進していく武道である。従って、受けの相手がいなければ技をかけられないし、技の形を示すのも難しいだろう。

しかしながら、一教や二教、四方投げや入身投げの形は、単独動作でもできるようにならなければならない、と考える。事実、かつて師範だった先生方や先輩の多くは、単独動作で技の形や転換・入身転換を示され、それに説明を加えて教えて下さった。今でも頭に残っているほど、すばらしい動作であり、今の自分もその動作をイメージしながら稽古をしている。

単独動作ができるためには、まず相対できちんと動けなければならないだろう。その証拠に、相対でうまく動けない初心者は、単独で動くことはできないはずである。相対で技がうまくかけられるようになると、単独でも動けるようになってくる。ということは、逆に言えば、単独動作でできなければ、相対での動作もまだまだ、ということになるだろう。

つまり、一人でできれば二人での相対もできるが、二人でできたら、一人でもできるとは限らないわけである。

単独動作の稽古をやると、相対稽古では難しい稽古もできるのである。例えば、手足のつかい方を細かくチェックしたり、修正すること等である。相手がいる場合は、相手を倒すことに意識がいってしまったり、相手に邪魔されたりすると、なかなかできないものである。また、自分の見つけた理合いや、覚えるべきことなども身につけやすい。

単独で動作をやってみると、十字、円の動きの巡り会わせなどに注意して動くことができるので、合気の理合い、宇宙の法則に則った動きとなる。無駄のない、つまり、美しく、説得力のあるものになるだろうし、また、そうなるように稽古を積まなければならない。

単独動作ができるようになり、稽古でもそのような動きができるようになると、動きの中に相手を取り込んでしまうことができる。相手を倒そう、抑えよう、などと考えなくとも、単独で動いた動きで技をかければ、相手は己れの円の中に入ってきて、自分から倒れてくれるのである。

剣や杖を使う稽古においても、本来は単独動作(剣・杖を持たない身一つの動作)ができなければ、太刀取りや杖取りなどができるわけがないのである。剣や杖の単独動作の稽古をやる場合には、剣や杖を持たなくても、剣や杖を手に持っているように動くのである。だが、これはよほど剣や杖を振り込まなければ、簡単にはできないだろう。

修業というものは、本来、つまり終盤は、基本的に一人でやるものである、と考える。始めは師に教えてもらい、次には人を頼りにしながら精進するが、ある段階からは己れ自身に教えてもらい、また、己れ自身を教えなければならなくなるのである。

単独動作でも技が遣え、剣や杖も遣えるようにしたいものである。