【第435回】 基本準備動作を大切に

植芝盛平監修・植芝吉祥丸著の『合気道技法』には、「基本準備動作とは、技に移る以前の動作をいう。この準備動作を充分身につけることにより、それ以後の技に対する動きが異なってくるのは当然であり、これによって技の基礎が固められるので、重大な意義があるのである。」とある。

開祖がおられたころの稽古では、どの師範も今のような準備体操などやらないで、基本準備動作をして技の稽古に入ったものだ。当時はこの基本準備動作の重要さなど分からなかったので、早く技の稽古をしたいものだとあせって、基本準備動作を真剣にはやっていなかった。

当時の同年代の稽古仲間は、みな似たようなものだっただろう。だが、先輩の多くはこの基本準備動作の稽古を真剣にやっていた。稽古時間が終わったあとも、我々後進をつかまえては、鏡の前で納得するまでくりかえしてやっていたしまた、我々にも教えてくれた。今、それが大いに役立っているのである。

『合気道技法』によれば、基本準備動作もいろいろあるようだが、まずは大きく二つに分けられる。一つは一人で行う単独動作、もう一つは二人で行う相対動作である。

この内、当時よく練習した基本準備動作と、今になってわかってきたその重要性を書いてみよう。

単独動作:相手なしで、ひとりで合気道の動きを練習する基本準備法

  1. 足捌き:
    1−1継足(つぎあし):前足に後ろ足が随従する歩法で、四方投げの最後の切り下ろし動作等に利用される。
    継足は重心の移動が重要であり、重心の移動をスムーズにする稽古によい。
    1−2歩足(あゆみあし):足を交互に運ぶ歩法だが、撞木(しゅもく)で歩を進めなければならない。歩法の基本であり、この歩法ができなければ、技をつかうことはできない。
  2. 体捌き:
    2−1体の転換(1):半身の姿勢で、腹と結んだ手を前に出し、その半身のまま、前足を支点に背面に180度転換する。
    2−2体の転換(2):半身の姿勢から、後ろ足を一歩進めて、その前足を支点にして背面に180度転換する。
    2−3 一教運動:一教運動で手刀の手を前に振り上げ、振り下ろして手を握り込む運動。これを繰り返す。
    2−4 一教転換運動:一教運動で、手を振り上げ、振り下ろしたところで、体を180度転換し、転換したところで一教運動をする。
    合気道の技の基本は入身と転換であるから、この体の転換法は重要な基本準備法である。これがしっかりできなければ、技は効かないことになるだろう。この練習で、折れない手、手を螺旋でつかう、脇を開けないで手を挙げること、などが覚えられる。
  3. 手首関節柔軟法:これらは今も行われているので、省く
    3−1 小手回し法(二教運動)
    3−2 小手返し法(小手返し運動)
    この他、手首の他に指の3つの関節、肘関節(三教運動と肘固め運動)、肩・肩甲骨関節、胸鎖関節などの関節柔軟法がある。
  4. 膝行:基本準備動作であり、ふだんから少しずつでもやっていけば、膝を痛めることもない。また、膝行は膝で進むだけでなく、股関節のカスを取り、腰を柔軟で強靭にする。技の稽古だけに頼るのでは、どこか無理してしまったり、十分な鍛錬ができないものである。
  5. 受身:前受身、後ろ受身が基本であるが、特に初心者や高段者は、技の稽古だけでは十分に受け身が取れないだろうから、受け身を基本準備動作でやるのがよいだろう。
相対動作:相手と二人で合気道の動きを練習する基本準備法
  1. 体の転換法:左右どちらかの足を軸として、体を転ずる稽古法。片手取り、両手取り、肩取り、襟取りなどあるが、基本は片手取り転換法であろう。これができれば、他の転換法も容易にできるはずであるから、数多く練習すべきだろう。
    片手取り転換法にもいくつかあるが、代表は次の2つだろう。
    1−1外転換:相手に片方の手を取らせ、持たせたところを支点にして、体を180度背面転換する。
    1−2後転換:外転換をさらに180度転換する転換法。
    このような体の転換法で、大事なことは体がきちんと転換することはもちろんであるが、気持もちゃんと転換して、体と気持と息がばらばらにならないよう、一つになることである。
    体の転換法では、相手との接点である支点を始めに動かすのではなく、基点である腰をつかい、その支点を動かすことを覚えること。
    それができるようになると、片手取り呼吸法、諸手取呼吸法に発展していくが、この相対動作での体の転換法が原点になる。
  2. 後ろ両手取り捌き法:私が勝手につけた名前であるが、名前は重要でなく、この基本準備動作が重要なのである。後ろから両手を相手に取らせるところから、相手をくっつけて誘導する鍛錬法である。
かつて本部で教えておられた有川定輝師範は、後ろ両手取は武道としてつかえるものではなく、鍛錬法であるといわれていた。後ろ両手取では、相手を投げることを考えるのではなく、鍛錬法と考えて、その基本準備動作もしっかりやらなければならないと痛感する。

相手は背後にいるわけだから、隙が少しでもできれば、たたかれたり、首をしめられたり、体ごと持ち上げられたりしてしまう。隙ができるのは、相手の手がこちらの手から離れてしまうことによるのであるから、相手の手が離れないように、相手がいたずらできないように、くっつけてしまわなければならない。

そのためには、持たせた手のつかい方を、相当注意して練習しなければならない。相手を投げようとする技の稽古では難しいだろうから、後ろ両手取り捌き法の基本準備動作の練習が必要となる。

逆にいえば、これは相手をくっつけ、相手と一体化する感覚を身につける最良の基本準備動作ともいえるだろう。

合気道の技は、円い一連の動きであるから、とぎれなく行うことが大事である。だが、部分々々を切り取っても、理に適っていて、力強く、そして無駄なく美しいものでなければならないだろう。切り取った部分が美しいことはもちろん、また、初めから終わりまでの一連の動き、つまり技も、非の打ちどころがないようにしていかなければならない。もし、どこかに非があれば、基本準備動作でそこを補っていかなければならないだろう。

基本準備動作をもっと大事にして、稽古に励んでいきたいものである。


参考・引用文献 『合気道技法』(植芝盛平監修、植芝吉祥丸著)