【第433回】 己れの円に収める

合気道は、一般的に相対で技をかけ合いながら、技を磨く稽古をするものである。相手にかけた技がよければ、受けの相手はそれなりに倒れてくれるので、少しでも相手がうまく倒れるように技をかける。しかし、それが高じると、相手が倒れれば己れのかけた技がよいとなって、相手を倒すことに専念してしまうことになる。つまり、倒すことが稽古の目的になってしまうわけでる。これは、魄の稽古であり、争いをつくることになるし、その内に壁にぶつかることになる。

合気道の技は、相手を倒すのではなく、相手が自ら倒れるようにならなければならない。そのためには、技をかける過程を大事にしなければならない。技の過程がまずければ、受けの相手に技が効かないので、倒すには合気道でない力で倒すしかなくなり、道からどんどん離れていくことになる。

相手が自ら倒れるような技をつかわなければならないのだから、容易なことではない。合気道の技は、宇宙の条理、宇宙の営みを形にしたものであり、宇宙の法則に則っている。無限と思われる法則を身につけなければ、技にならないのである。

無限にあるような法則を身につけるのは難しいが、少なくとも法則違反をしないように稽古しなければならないと考える。初心者の稽古を見たり、自分の以前の稽古のやり方を思い返すと、自分がかつてそうであったように、多くの法則違反をしているのに気がつくだろう。

今回は、特に最近気になる法則違反を考察してみよう。それは、相手の円内で技をかけることである。

合気道の技は、円の動きの巡り合わせである。技はいくつかの円の動きの組み合わせで出てくるが、円は技をかける己れだけでなく、受けの相手にもあるのである。

技を効かせるためには、自分の円に相手を取り込んでしまうことである。そのためには、相手の円も尊重しなければならない。相手も円の動きができるように、そして、その円が己れの円に合致するようにすればよいのである。相手の円の動きを邪魔するようでは、技にはならないだろう。

これがわかりやすい稽古は、片手取り呼吸法や片手取り四方投げである。うまく己れの円の動きに相手を取り込めば、相手は倒れてくれるが、そうでなければ倒れないことが、よく分かるだろう。

この片手取り四方投げで多くの初心者が侵す法則違反は、相手に持たせた手が、円の動きではなく、直線的に相手の円の領域内に侵入してしまうことである。そうすると相手は脇をしめてしまうので、体が安定し、その上に「おのれ小癪な」と気分を害して、やられるものかと反抗することになる。

持たせた手を円でつかうためには、相手との接点にある手は動かさないで、まず手と結び、手と対照にある腰・腹を、左右の足を陰陽で撞木につかって動かす。すると、手先が円に動くのである。撞木とは十字であり、十字は○ということである。円い動きは、十字によってできるのである。

手先から動かしては十字にならず、手は円く動かないので、直線的に動いて、相手の陣地に侵入してしまうことになる。

この片手取り四方投げの円の動きを横の円の動きとすると、これに対する縦の円の動きもある。この縦の円の動きでも、相手を取り込むようにしなければならない。

縦の円の動きとは、ギンギンギラギラと手を返す動きである。それがわかりやすいのは、片手取り・諸手取り・坐技呼吸法であろう。持たせた手を、縦で十字に円くつかうと、相手の力が抜け、無重力状態でくっついてくるはずである。

円には縦と横の動きがあり、技は両方の組み合わせでつかわなければならない。これが、技は円の動きの巡り合わせである、ということだろうと考える。この円の動きの巡り合わせで、相手と結び、相手と己れの共通の円から己れの円に相手を取り込んでいくのが、合気道の技づかいの基本であると考える。