【第431回】 天地の力を取り入れる

前回(第430回)は「天地の力を」というタイトルで、魄の稽古を脱するためには次の段階の力、すなわち「天地の力をつかわなければならない、と書いた。

今回は、どうすれば天地の力を取り入れることができるようになるのか、を研究してみることにする。

開祖は「天の息(呼吸)と地の息(呼吸)と合わして武技を生むのです。地の呼吸は潮の満干で、満干は天地の呼吸の交流によって息をするのであります。天の呼吸により地も呼吸するのであります。」(『武産合気』)といわれている。

ここでは、天地の力を天地の息(呼吸)とし、これを呼吸法(諸手取り、片手取り)でどのようにするか、を考えてみることにする。

まず、天の呼吸である。息を天から入れ(吸う)、息を吐きながら、後ろ足から前足に重心を落とし、受けの相手にこちらの手を取らせ、相手と一体となる。これが、天の呼吸に自分の呼吸を合わせる腹式の縦の呼吸である。

次に、息を入れながら、前足にあった重心を他方の足に移動するが、それがスムーズにいくためには、まず、前足にかかっていた重力の抗力を腰に集めなければならない。そのためには、足底から力を直接腰に流すのではなく、大腿骨のところから横に流さなければならない。なぜならば、大腿骨は骨盤に垂直ではなく、横についているからである。(図参照)


つまり、足底からの力を腰まで垂直に一本でつかうのではなく、十字につかわなければならないということである。

だが、足底からの垂直の力を横に流すためには、股関節の力みを取り、撞木(十字)の足による重心移動が必要である。これによって、腰も十字に反転し、円運動になる。すると、重心が地に落ちる。つまり、地の呼吸になるわけである。

重心が移動すると、大腿骨からの力が腰に流れ、そこから体の中心の背中を流れ、そして、胸鎖関節から肩甲骨、上腕、腕、手先へと流れる。また、重心が足に移ると、重心が落ちてない側の足は自由になり、腕とともに天の呼吸に従って上がっていく。

地からの力も、合気道の原理原則である十字に働いている。つまり、足底から大腿骨(縦)、大腿骨から背骨(横)、背骨から胸鎖関節(縦)、胸鎖関節から肩甲骨(横)、肩甲骨から上腕(縦)、(上腕から腕、腕から手先)となる。また、息(呼吸)も、縦(腹式呼吸)と横(胸式呼吸)の十字である。

合気道の原理原則は宇宙の法則であるわけだから、この原理原則に則っていれば、人は違和感なくそれに従うだけでなく、喜んで自ら身をゆだねることになる。そして、これこそが合気道が求めている争わない力、魂の力ではないか、と考える。