【第412回】 息のひびきと天地のひびきをつなぐ

合気道修行の目標は、「宇宙との一体化」といわれる。宇宙と一体化するとどうなるかはまだよく分からないが、宇宙を感じ、宇宙の営みに同化し、宇宙楽園建設への生成化育に使命をもって携わっていることを実感すること、などではないかと想像する。

広大無限な宇宙との一体化などは、難しいという以前に、可能性など皆無のように思える。だが、合気道を修行する者はそれを求めていかなければ、邪道に陥り、体を壊すことになる、と開祖はいわれているのである。だから、この道を進んでいかなければならないだろう。開祖は身をもってそれを示されたし、文章にも書き遺されているのだから、諦めずに挑戦し続けるしかない。

合気道は相対で技をかけあい、技を練り、体と心を鍛えていく武道である。まずは、体をつくり、力をつけていくわけだが、ある程度の時点で、それまで鍛えた体力を土台にし、新たな稽古に入らなければならない。それが、「宇宙との一体化」への稽古であると考える。

合気道は武道であるから、かけた技は効かなければならない。技をかけて、相手が倒れなければ、その技は効いていないことになり、未熟な技ということになる。

これまでの体力を養成する段階では、自分の体力で相手を倒すわけだが、新しい段階では、宇宙の力をお借りして技をかけていくことになるだろう。

まず、開祖は、「天地万有は呼吸(いき)をもっている。精神の糸筋をことごとく受けとめているのである。おのが呼吸の動きは、ことごとく天地万有に連なっている。つまり己の心のひびきを、ことごとく天地に響かせ、つらぬくようにしなければならない。」(「合気真髄」)といわれている。

技は自分の心のひびきが、天地に響き、つらぬくように、つかわなければならないということであり、相手だけを考えていては駄目だ、ということにもなるだろう。

また、「技は、すべて宇宙の法則に合していなければならない。宇宙に結ばれる技は、人を横に結ぶ愛の恵みの武ともなる。」(同上)ともいわれる。実際、宇宙の法則に則った技をつかえば、相手と気持ちよく結ぶことができ、一体化してしまうものである。

さらに、「宇宙と結ばれる武を武産の武というのである。」(同上)この段階からは、武産の合気道にならなければならないのである。

開祖は、『合気真髄』の中に、その武産の武の初歩の稽古法を示されている。

  1. まず、その第一歩は、結びであるという。結びは五体からの「ひびき」により、五体のひびきの形に表れるのが「産び(むすび)」であるという。何はともあれ、相手と結び、相手と一体化することからでなければ始まらないわけである。これは体力だけでは難しく、いわゆる天之浮橋に立たなければできないはずである。いかなる技をつかう場合も、相手との接点で結ばなければならない。結ばなければ、五体からのひびきが不十分ということになる。
  2. 「呼吸の凝結が、心身に漲(みなぎる)ると、己が意識的にせずとも、自然に呼吸が宇宙に同化し、丸く宇宙に拡がっていくのが感じられる。」(同上) この前の相手と結ぶ際は、息を吐く(腹式呼吸で縦に)が、今度はここで息を吸う(胸式呼吸で横に)と、相手が同化してくる。入身投げや呼吸法などでこれは感じられやすいだろう。相手の人間で感じられれば、そのうち宇宙との同化、丸く宇宙に拡がっていくことも感じられるようになるのだろう。
  3. 「その次には、一度拡がった呼吸が、再び自己に集まってくるのを感じる。」(同上) 今度は技を納めるわけだが、息を吐いて息と心と体を統一するということであろう。
この武産合気の1〜3をやるためには、宇宙の法則、宇宙の条理にかなった体の使い方、技を生み出す仕組みの要素、天之浮橋に立って、等などを基にやらなければ出来ないはずである。まずは、武産合気に入る前に、これらの必要不可欠な基を身につける必要があるだろう。

これができるようになると、「精神の実在が己の周囲に集結して、列座するように覚える。」(同上)とあるが、これは、まだ合気妙用の初歩であるという。
この合気妙用ができるようになると、どのようになるかを、次回は「摩擦連行作用」として書いてみたいと思う。