【第411回】 分身分業で生成化育している社会

合気道は、技を練磨しながら上達、精進していく武道である。しかし、それだけでは、仏教でいう小乗である。本人のためにはなるだろうが、まわりの人、社会のため、人類のためにはならないのではないか。

開祖による合気道の教えは、人類、万有万物、地球、宇宙のためにお役に立つようにならなければならない、ということである。それなら、大乗の合気道をしなければならないだろう。

しかし、現実には、自分のための稽古で精いっぱいである。自分のことも満足にできないわけだから、他人や、ましてや、宇宙のことなど考えることなど難しいことになる。

武道であるのだから、自分のこと、自分の考えなどは、技できちんと示すことが必要である。技を練磨して、自分をつくり、思想を形成していかなければならないし、自分や思想を技で現わすようにしなければならないと考える。

これはやり続けなければならないことであるが、誰にでもできるはずである。問題は、社会のお役に立つ、ということにある。つまり、どうすればお役に立てるか、ということである。

技で社会にお役に立つようにするのは、難しいだろう。開祖植芝盛平翁ならば、各界の要人が自然に集まり、合気道の思想や宇宙思想を説き、政治家、宗教家、学者、芸術家、哲学者、武道家、スポーツ界などの方々を導き、多大な影響を与えることができたわけである。だが、われわれではそれだけの人たちを集めてお役に立つのも難しいことである。だから、こちらから社会に働きかける必要があるだろう。

開祖の思想・哲学は、開祖が『合気真髄』『武産合気』に残されている。これを我々合気道家が学び、技を通して身につけ、そして、それを社会に還元していくことが、社会への貢献だと考える。

これは、確かに大変なことではあるが、意外と容易なことかもしれない。なぜならば、社会や世の中は、すでに開祖が言われているように動いているようであるからである。要は、それを社会に認知させ、気付かせればよいのではないかと思う。

合気道のもっとも基本的な教えは、万有万物は一元の大神様から生まれ、分身分業で、宇宙楽園、地上天国建設のための生成化育を繰り返している、ということである。この教えがわかれば、愛が生まれ、愛によって争いがなくなり、楽園・天国が建設されることになるのである。

187億年前に宇宙ができ、46億年前に地球が誕生、7〜8百万年前に人類が誕生して以来、万有万物は一つの方向に向かって進んでいると言えよう。受賞したり、称賛されたりするのは、この方向に沿ったものであるはずだ。この方向の先にあるものこそ、宇宙楽園、地上天国なのである。ただ、人類はまだそれに気がついてないのである。

仕事の関係で、一月は多くの賀詞交換会に参加する。業界の会長をはじめ、要人が数百名集まり、今年の業界の健闘を誓い合うのである。業界のため、企業のため、関係企業のため、企業の家族、そして、それが日本のため、引いては世界のため、人類、宇宙のためになるように、がんばっておられる方々である。

そのように見ていると、彼らが自分たちのやるべき仕事を果たし、宇宙楽園建設のための生成化育の使命を果たしている家族のように見えてくる。少なくとも、宇宙の目から見れば家族であろう。共に同じ使命をもった家族であり、それ故、がんばってくださいとか、一緒に頑張りましょうという家族愛が生まれるのである。

見本市会場には、多くの出展社やビジターがいるが、この人たちもそれぞれ一生懸命に働いている。彼らも宇宙楽園建設のための生成化育の使命を果たしているのであり、宇宙家族ということになる。

満員電車に乗っても、みんな宇宙楽園建設のための生成化育の使命を果たしているのだと思って見ると、混み合っていても愛が生まれるだろう。愛とは、相手の立場で考えること、やること、である。

この他の場面でも、また日本だけでなく外国でも、同じである。人は同じ目標に向かい、それぞれの使命をもち、生成化育を果たしている家族なのである。

合気道の相対稽古の相手を敵と思ったり、投げたり抑える対象物などと考えているようでは、業界の他社や満員電車の他人が敵であり、嫌な奴、やっつけるものとなってしまう。まずは、稽古相手は合気道同人、合気家族となり、結んで分身となるようにならなければならない。

それができれば、世間に合気道の思想を説くことができるようになり、合気道が社会に貢献できるようになるだろう。開祖も喜ばれるはずである。