【第409回】 生産び(いくむすび)で仕事をする

開祖は『合気真髄』のなかで、日本には太古の昔からの日本の教えがあり、それを稽古するのが合気道である、といわれている。その一つに、昔の行者などが「生産び」といっていた息づかいの教えがある。それは「イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸う。それで全部、自分の仕事をするのです。」ということである。

合気道は相対で技をかけ合い、受けを取り合いながら鍛錬していくものだが、ここでの主な自分の仕事は、技をかけることになるだろう。とすると、一つの技(技の形)をかけて収めるまでの仕事は、この生産びでやらなければならないということになる。

では、この「イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸う」という生産びで、実際にはどのように仕事をするのか、ということである。

例えば片手取り四方投げの場合なら、相手に手を取らせる際に、息をイと吐きながら取らせて、相手がこちらの手を取ったところからクと息を吸いながら相手を誘導し、相手を投げる際にムと息を吐きながら倒す。そして、相手から離れながらスと息を吸い、間合いを取り、次の体勢にはいり、また、イと吐いて相手と接していく、を繰り返すということである。

この生産びの息づかいは、片手取りだけでなく、両手取りや諸手取り、正面打ちでも、また、立ち技、坐り技、呼吸法などでも、すべてに必須である。実際、生産びの息づかいで技を使わないと、技は効きにくいはずである。

技がうまく使えず苦労する基本技として、天地投げがあるが、その大きい原因の一つが、相手に取らせるはじめの手をイと吐いて取らせていないことにあると見る。技は相手と接する最初の瞬間が特に大事であり、この場合イと息を吐きながら使わないと、後の息づかいも目茶目茶になり、よい仕事はできないことになる。

この生産びの息づかいは、技をかける時だけでなく、受け身でもやらなければならないものである。受け身も大事な仕事であるから、その仕事も生産びである。つかんだり打ったり、相手に接する時には息をイと吐き、相手と接してからは息をクと吸いながら、相手について行く。相手が投げたり、抑えてきたらムと吐く。そして、スと息を吸いながら起き上がって、体勢を取る。

さらに、この生産びの息づかいは、準備運動、手首・肘・肩の鍛錬運動でも、同じである。生産びでやると、伸びるところは伸び、堅強になるところは堅強になるものである。ただ形をなぞってやっても、運動にも鍛錬にもならないだろう。

太古からの教えに則った合気道は、生産びの息づかいを通すことで、自分の仕事をするようにしていかなければならない。