【第395回】 ちょっとしたポイント

合気道はこれでよいということはなく、修行には際限がないものである。だが、現実には、中途で挫折してしまう稽古人が多いことは残念である。せっかく20年、30年と続けてきた稽古を止めてしまうのだから、おそらく本人達も残念なのではないだろうか。

稽古を止める理由はいろいろあるだろうが、その最も多い理由は、壁にぶつかって先に進むことができず、止めていくのではないかと思う。壁にぶつかっているような人を、このままでは止めてしまうのではないかと思いながら見ていると、やはり次第に稽古から遠ざかり、遂には止めることが多いのである。

初心者の内は、壁にぶつかって止める、止めない、などと悩むことはないだろう。できないのが当然であり、まだまだ可能性があるからである。それに反して、長年稽古をしている稽古人は、長く稽古しているにもかかわらず、初心者にちょっと強く抑えられて動けなくなったり、技が効かないで倒せなかったりすると、これまで何十年も稽古してきたのは何だったのか、と悩むことになる。

その時はそれで奮起してがんばるだろうが、不思議なことに、一度そのような経験をすると、うまくいかないことが引き続いて起こるもので、そのためにますます自信がなくなり、迷いが増えてしまうようである。

長年稽古すれば、誰でもある程度の力はついてくる。また、基本の形も一通り身につけている。これは必然であり、それまでの稽古は間違ってはいなかったことになる。

しかし、実はこれはまだ準備段階で、本当の意味でのいわゆる初段であり、これから本格的な稽古に入れる、というところなのである。

この段階では、技などまだつかえないし、力もあるが、それは腕力であって、その力で形をなぞっているだけである。ここから先は、呼吸力を養成し、技を身につけていかなければならない。

この初段の段階から、それまでと同じような稽古を長年続けても、技や呼吸力は身につかないものである。腕力によって、従来の形で相手を倒そうとするだけになってしまう。だが、腕力と形では、相手を倒すことはできない。やはり、宇宙の法則に則った技と、求心力と遠心力を兼ね備えた呼吸力がないと、技は効かないはずである。

長年稽古してきて壁にぶつかり、抜けだそうと悩んでいる稽古仲間を、その壁から抜け出してやるのは、それほど難しくはないだろう。例えば、次のようなポイントを気付かせればよいのである。

前述したように、長年稽古をしているのであれば、力(腕力)はけっこうついている。そのために、かえって手さばきで技をかけることになってしまうのである。悩んでいる人のほとんどは、そのように思える。

従って、手先の力の弱さを気付かせ、腰と結んだ腰からの力をつかわなければならないことを示して、試させ、実感させるのがよい。腰から動かして手を使えば、相当な力が出るし、それは、それまでの力(腕力)の数倍の力であることがわかるであろう。

これだけで、稽古はずいぶんと変わるものである。稽古は、やればよいというものではなく、やるべきことがある、ということがわかるだろう。これまでの延長上ではなく、これまでと違う道に進まなければならない、と気付くのである。それまで外れていた合気の道に乗るわけである。道に乗れば、あとはその道を進んでいけることになる。

腰を動かして手先をつかうわけだが、腰をうまく使うためには、左右の足への重心移動が正しく行われなければならない。このポイントがわかれば、さらなる力が出るし、技のためには法則を身につけていかなければならないことが認識されるはずである。そして、法則が無限にあることも分るようになるだろう。

さらに、腰からの力が手先まで伝わるために、また、その力を相手に結びつけ、流すためには、折れない手でなければならないことや、また、相手をくっつけるために、手を螺旋でつかわなければならないこと、なども覚っていくだろう。

そしてまた、腰からの力を螺旋でつかうことによって、呼吸力が何であり、どうすれば呼吸力がつくかも、分ってくるはずである。そこで、呼吸力を養成していくのが稽古であり、これには切りの無いこともわかるだろう。

合気道の技には無限の法則があり、その法則と呼吸力を身につけていくのが合気道の修行である、ということが分れば、稽古はまだまだいくらでも続くことになるはずである。