【第395回】 長い手をつくる

前回の第394回では「長い手」について書いたが、今回はその長い手をつくるためにはどうすればいいのかを書いてみる。

合気道の稽古は体をつくっていくことも重要であるが、体は末端から中心に向かって鍛えられ、つくられていく。鍛えられ、つくられるというのは、主要な関節の可動範囲が大きくなり、それを動かす関連筋肉が強靱で柔軟になること、といえるだろう。例えば、手には技をかけるにあたっての4つの主要な関節(手首、肘、肩、胸鎖関節)があるが、初めに鍛えるのは誰でも手首の関節とその関連筋肉である。そして、肘、肩と続くのである。

肩がつくられると、肩がぬけて手先と腰腹がつながり、腰腹の力がつかえるようになる。それまでとは、質・量とも違った力がでるようになる。

肩がぬけるようになったら、次が長い手である。胸鎖関節を支点とする肩甲骨の可動範囲を広げ、肩甲骨の操作で手をつかうのである。手は手先、前腕、上腕に加え、胸鎖関節から肩までが加わった長い手になるわけである。

そこで、この長い手をつくるのはどうすればよいかということになる。

  1. 最も基本的な方法は、受けでつくることであろう。受けでは、力まず逆らわず、技をかける相手の動きの遠心力にのるのである。このような受け身を取っていけば、肩もぬけるし、長い手にもつくられるはずである。 長年稽古しても、肩がぬけてなかったり、長い手がつくられてない場合は、受け身をそのように取ってこなかったか、十分に受け身を取らなかったことになるだろう。
  2. 上の受けとも関連するが、二教と三教で最後の極めの受けをしっかり取ることである。自分の限界の紙一重のところまで伸ばしてもらうのである。肩甲骨の内転と挙上に非常によい。
  3. しかし、最も大事なことは、技をかけるときに、長い手をつかった稽古をすることである。四方投げでも、小手返しや二教や三教でも長い手を使ってやるのである。
  4. 道場の相対稽古以外で、長い手をつくるための鍛錬としては、「船漕ぎ」運動がよい。前に出した手と肘を後ろに引く際に、左右の肩甲骨が背中で少しでも近付くように、思い切り内転させながら引くのである。前に出した手を上から回して下ろして突く際は、肩甲骨の挙上、下制の鍛錬となる。また、手を前に出す際は、肩甲骨が外転するので、「船漕ぎ」は、肩甲骨の4方向の可動範囲を広げる鍛錬になる。
  5. もっと手軽に家でもどこでもできる方法としては「腕立て伏せ」がある。肩甲骨の内転と外転を意識してやると、効果は大きい。
  6. もうひとつ、やる気と時間と場所のある人に勧める方法がある。それは2キログラム程の鍛錬棒や鉄棒を振ることである。これは10回でも100回でもよいが、大事なことは自分のできる範囲内で、毎日振ることである。だから、たまに100回振るよりは、毎日10回振る方がよいということになる。