【第393回】 人はみんながんばっている

今はまだ、物やお金を求めている物質文明世界である。物やお金を優先し、それを獲得するために、大半の時間や労力や精神を費やしており、それで人や家や国を比較している時代であるといえよう。

経済は大事であるが、物が主体となれば争いになる、と合気道の開祖はいわれている。なんとかしなければならないだろう。

今の豊かな社会ができるためには、多くの犠牲が払われ、多くの大事なものが失われ、そして悪いものがたまった。これを合気道ではカスといい、このカスを取り除いていかなければならないとする。これが、合気道を修練しているわれわれの使命なのである。

合気道だけでなく、宗教や平和団体、それに政治団体や国連などなどは、戦争や紛争をやめて、平和な世界をつくられなければならないと言っているが、平和な世界の実現はまだ難しいようだ。

開祖は、争いのない世界をつくるのは、物質科学から精神科学に変わらなければならない、と言われている。魄から魂、ものから心に変わる世界、魂が魄の上になり、魄を導き、ものより心を重視し、心がものを導く世界である。

そのため、合気道の技の練磨を通して、見える魄の体力ではなく、見えない魂の力でやろうとしているが、なかなか難しいものである。合気道の世界で精神科学が身につかなければ、他の世界を精神科学の世界に変えることもできない。できるかどうかわからないし、いつできるかも分らない。

しかし、それではいつまでたっても、合気道が世の中のお役に立つことはできないで、開祖のご意思に背くことになってしまうだろう。なんらかの方法で、お役に立たなければならない。

以前にも書いたが、合気道では、人はひとりとして他人という人はいないし、人類は一家族である。また、人類だけでなく、生物、そして無生物の万有万物も、どこかでつながっている家族である、とする。これは、科学であり、事実なのである。何もなかったところから、138億年前にビッグバンがあって、そこから万有万物が創造され、今に続いているのである。

まずは、人は国が違い、地域が違い、時代が違っても、どこかで必ずつながっている家族である、ということを認識することである。その認識ができれば、家族を殺し合うような争いや戦争など、無くなっていくはずである。

以前、人は万世一系の家族であると認識すると、人に対し、生き物に対し、万有万物に対し、そしてそれらを創造した宇宙に対して、「愛」と「感謝」の念が生まれるはずだ、と書いた。

さらに、万世一系は家族である、と人を「愛」の目で見ると、みんな誰もが一生懸命にがんばっているのが見えてくる。大人も子供も、職場でも家庭でも、街の中でも電車のなかでも、みんながんばっていると見えてくる。

他人は敵であり、競合である、と思っていた若い頃は、他人の成功を妬んだり、他人の失敗を喜ぶという、恥ずかしく、貧しいものだった。それを変えてくれたのは、合気道の教えである。

合気道は、人はみな万世一系の家族であるということと、人も万有万物も各々使命をもってこの世にある、と教えている。それは宇宙の意志であり、宇宙の目的を果たすためである、という。その宇宙の目的というのは、宇宙楽園の建設、地上天国の建設である。

人は国が違い、地域が違い、時代が違っても、この宇宙楽園の建設、地上天国の建設のために、誰もが分身分業で自分の使命を果たそうとがんばっているのである。この目で人を見ると、ご苦労さまと感謝の念が湧き、愛の目で見るようになるはずである。

戦争で人を殺したり、人さまのお金やものをだまし取ったりして、がんばっている人たちもいるが、これは楽園・天国建設の宇宙の意志に従っていないはずだから、長続きはしないだろう。また、自分たちの真の使命を果たしていないことに、いずれ気づくはずである。

たかだか数百万年の歴史の中にある人類は、時として戦争や破壊や汚染など、反楽園・非天国建設をやってはいるが、大局から見れば、宇宙の意志の方向に進んでいるはずである。

この宇宙の意志に沿ったもの、つまり宇宙楽園の建設、地上天国建設に役立ち、促進するものは、評価されることになる。大きく評価されれば、ノーベル賞などのような評価がなされるし、小さければ、親や先生が子供の頭を撫でたりすることになる。

人は無意識で、宇宙の意志のためにがんばっている、と思える。がんばる人がいるから、がんばる人を癒す人もいる。癒す人もがんばっている。みんな万世一系の家族として助け合い、協力しながら、理想郷建設のためにがんばっている。

お父さんは家族のためにと思ってがんばっているのだろうが、結局は、宇宙楽園の建設、地上天国建設のためにがんばっているのである。会社の仕事も、そうである。

合気道の稽古も、初めは自分のためであるが、相手のためにも稽古になるよう、また、合気道のために、世界のために、そして結局は、宇宙楽園の建設、地上天国建設のために、稽古をがんばっているはずである。

自分ががんばると、人のがんばりが見えてくる。宇宙の意志のためにがんばっているのが、見えてくる。自分と違ったやり方、考え方をする人もいるだろうが、それもがんばっているのである。

人がみながんばっている、と見えるようになれば、開祖が望まれていた争いのない世界、極楽浄土の世界に近づくであろう、と期待するものである。この合気道の教えを世の中に伝え、そろそろ争いのない世界にしていきたいものである。