【第393回】 離れない手と離す手

合気道で技をかける際は、ほとんどの場合、手を使って投げたり、抑えたりするだろう。手は体の中でも最も自由自在に動ける部位なので、めちゃめちゃに動かしたり、手の力に頼ったりすることになる。つまり、手は自由自在に動ける反面、その使い方が難しいものである。

合気道では、自ら先に攻撃することはないので、相手がこちらの手を取ったり、正面打ちの場合のように打ってきてから、触れられた手を使って、技をかけることになる。自分から先に手を出して攻めてはならないのである。

しかしながら、合気道の稽古では、相手に手を取られるのではなく、相手に自分の手を取らせる、と思って稽古しなければならない、と教わっている。矛盾でもあるし、攻撃が先行する訳ではないのだが、そう思ってやらないと、確かに手をうまく使うことはできないものだ。

先ずは相手に手を取らせるわけであるが、相手がこちらの手を掴んだり、抑えたりしてくるのは、さらに攻撃を加えるためである。だから、相手に接した瞬間に、相手からその力と気持ちを抜かなければならない。そうしなければ、攻撃側の相手の力と、それに対するこちらの力がぶつかって、争うことになる。

相手の力と気持ちを抜いてしまうには、こちらの手が相手の手に接した瞬間、相手と結んでしまうことである。つまり、相手と一体となることである。二人がひとりになるから、こちらの思うように動けるのである。

この二人が一体になったところから、合気の技を使うことができるようになる。だが、相手と一体となるための結びは、最初に触れた瞬間だけでなく、技の最後に相手が倒れるまで、その結びから離れないようにしなければならない。

技の途中で、相手が持ったり触ったりしている自分の手が、相手の手や接点から離れてしまうのは、絶対に避けたいことである。それでは、一体化していた相手と分離することになり、相手がまた自由になるので、解放された相手は再び攻撃や悪戯をしてくることができて、危険になるからである。

技をかけて手が離れるのは、いろいろと原因がある。

など等である。

技をかける際は、自分の手が相手から離れないように手を使うのだが、反対に、相手から手を離さなければならない場合もある。これも、意外と難しいものである。例えば、片手取り小手返しなどで相手にしっかりとつかまれている手を離す、いわゆる手解きをする場合、しっかり持たれると、持たれた手は容易には離れないものである。

稽古していて気がついたことだが、技をかけるとき離れる手になる人は、しっかり握られると、その手を離すことができないようである。どうも離れる手と離す手は比例しているようで、離れない手が使える程度にしか、小手返しなどでの離れる手が使えないように思える。

以前は稽古で、しっかり握らせた手を外す、いわゆる手解きの稽古を、基本準備動作で頻繁にやっていたものだ。だが、最近はほとんど行われなくなっている。手解きは柔術で最初に学ぶことであるといわれているが、昔から芸道の初歩を学ぶことを手解きを受けるというぐらい、大事な基本の稽古である。

相手にしっかりつかませた手を解くのも、容易ではない。手を離さないように手を使うのと同じく、手解きをするためには、やるべきこととやってはいけない事がある。
つかまれている手を解こうと、手を押したり引いたりしても、解けないものだ。まずは、相手のつかんでいる手に、くっついてしまうことである。
そして、手を先に動かすのではなく、腰腹で手を使うのである。
手を直線的に使っても、手は解けないものである。手はやはり、螺旋で円くつかわなければならない。
片手で難しい場合は、両手を螺旋で同時に円く使うことである。つかまれてない方の手で、つかんでいる相手の手を切るように使うのである。
手には充実した力と気持ちが流れていなければならない。
など等である。

つまり、離れない手も離れる手・解く手も、使い方は同じなのである。だから、手が離れてしまえば、しっかりつかまれると解けなくなる訳である。

どちらもうまくできるように、手が離れないよう、そして手が解けるように、稽古していかなければならない。