【第387回】 準備運動でわかる

武士など昔の人は、ちょっとした仕草や挙動で、その人の実力が分かったようであるが、また、わからなければならなかっただろう。従って、武士などは侮られないよう、また、スキのないよう、どこでもいつでも注意して生きていたであろう。

私の子供の頃の友達に、お爺さんが江戸末期の家老だった人がいた。友達の広い屋敷へ遊びにいくと、たまにそのお爺さんにお会いすることがあった。いつも着物を着て、背筋はしゃんとし、威厳のある顔で、眼光するどく、こちらの心を見透かされているようで、子供心にもこれが武士かと思ったものだった。ちなみに、このご家老はその数年前まで、長年にわたり参議院議員を務められていた。

合気道は切った張ったの勝負をするものではないので、相手のスキを突いたり、弱みを握るための稽古をしているわけではない。だが、武道であるわけだから、人や物でもその本質、特徴など等をとっさに見る目を養うことは、大事なことであると考えるし、スキを見せたり、弱みを握られないようにすることも、重要であると思う。

合気道でも一般的に準備運動をするようになったが、その準備運動中の動作や体づかいで、その人の実力はわかってしまうものである。手の上げ下げを見るだけで、手と腰がどれだけ繋がっているか、手や体のカスが取れているかとか、体の硬さや可動範囲などもわかってしまう。

また、息づかいや、稽古に対する集中度なども分かるものである。つまり、相対で一緒に稽古をしなくても、その人の実力がわかってしまう、ということである。

準備運動も、技の稽古同様に、一生懸命やらなければならない。見る人は見ているわけだし、準備運動も大事な稽古であるからである。大事な稽古という訳は、準備運動によって形稽古では不十分な稽古を補足することができるからである。関節を柔軟にする鍛錬、呼吸に合わせた体づかい、態勢のチェック、手の形や動きの軌跡のチェック、体の中心の腰腹の確認と中心から動かすことの確認と練習、などいろいろある。

準備運動もスキのないようしっかりできるようになると、相対の稽古はもちろんしっかりやるだろうし、道場の外でもスキのないような挙動や動作ができるようになるはずである。それは、かつて教えを受けた先生がたや先輩が証明して下さっている。

多くの稽古人達は忙しく働いて、緊張と疲れから解放され、リラックスするために稽古にきているようであるが、準備運動でもこのようなことも考えに入れておくとよいだろう。