【第380回】 肩の改造

合気道では、肩も大事である。肩が自由に動いて、可動範囲が広ければ、強力な力が出るし、また肩が貫ければ、体重を効率的に使うことができる。

肩は大事であるが、複雑でもある。身体で最も可動範囲が大きいので、壊れやすく、固定、安定化が必要になるからである。

年を取ってくると、肩の筋肉、筋が硬くなり、弱くなって、バランスが崩れ、四十肩、五十肩になりやすい。肩と肩甲骨のバランスが崩れると、別の部位も痛くなったり、動きにくくなったりする。

五十肩の由来は、江戸時代の俗語とされている。昔は長生きをして、老化とともに現れたため、「長寿病」とも呼ばれていたそうである。

街を歩いている高齢者の背中を見ると、肩がコチコチに固まっているように見受ける。合気道の稽古を続けていても、四十肩、五十肩はあるようだ。合気道をやって四十肩、五十肩にならないならありがたいが、その保証は残念ながらないようだ。かなりの稽古仲間や先輩でも、そしてご本人も、肩を痛めたことがあるからである。

稽古仲間や先輩方も同じであろうが、肩の痛みは常人のようにネガティブではなく、逆に有難いものと思い感謝する。なぜならば、これが次のステップへの必要なプロセスである、と考えるからである。常人ならば安静にしているか、治療所に行くだろうが、痛いながらも稽古を続け、痛みが取れるように自分でいろいろ考えて、試行錯誤するのである。

例えば、手先から動かすと肩が痛くなるが、腰腹で手を動かすと痛くないのである。また、手を上げ下げする日常の動作では痛むが、稽古では力いっぱい力を出しても痛くないのである。これが、まず不思議である。

そこで考えるに、これまでは手先から動かしていたので、肩の筋肉や靭帯・関節包がそのように繋がり、構成され、機能していたのが、体の中心から手を動かすことにとって、これまでの古い繋がり・構成・組織が使われなくなり、新しい繋がり・構成になったのではないかと思われるのである。

肩の痛みを覚えるのは、まだ、旧肩筋組織が残存していて、新しい組織に切り替わっていないところのようだ。新しい筋組織を使って肩を動かした時に、時々ボキッと音がして痛みが消えるのだが、その度に旧組織が無くなって、新しい組織ができているようである。ボキボキの数の多さは驚くほどであるが、肩の筋組織の複雑さと筋系統の多さを思い知らされる。

日常生活でやっているように、手先から動かすと、肩にひっかかって、痛むことになる。それに気付いて、体の中心から手を使うようになるのは、体からのご忠告であり、有難いことだと思う。

肩が柔軟になり、可動範囲が大きくなれば、技も変わるはずである。開祖や有川師範のような名人・達人の肩は、柔軟で大きく動いたように記憶している。

肩の痛みはその内に無くなって、新しい筋組織の肩ができるはずである。そして、本格的な肩の改造のために、あらためて肩を鍛えなければならない。

肩を柔軟に、そして、可動範囲を大きくするためには、例えば、肩取りで肩を手のように使えるように鍛える、受けをしっかり(限界の紙一重上)取る、特に固め技の受け(一教、二教、三教)をしっかり取る、遠心力と求心力の呼吸力がつくように@肩を取らせて呼吸投げA得物で鍛える(木刀、鍛錬棒)、などによって鍛えるのである。

肩の改造には多少の痛みを伴うかも知れない。しかし、自分の体を信じ、自分を信じて、次のステップへの必要な過程である、と信じてやるほかないだろう。