【第38回】 肺を鍛える 〜息づかい〜

合気道では技が切れることなく、無駄のない軌跡を描いて収めなければならない。しかし、実際に技を掛けると、途中で動きが止まったり、技が切れてしまうことが多い。技が途中で止まったり切れたりするということは、切れたところでその技は終わってしまうということであり、従って切れたところからまたやり直さなければならないことになる。それに、切れたことによって、折角崩した相手を生かして立ち直らせることになってしまうので、立ち直って安定した相手を崩そうとして力んでしまうことになる。

技が切れてしまうひとつの原因は息づかいにある。息づかいの基本は、一技一呼吸といわれる。つまり、一つの技をはじめて終わるまで一呼吸で収めなければならない。

この息づかいは初心者には難しいようだ。理由はまず、身体が硬いために呼吸に身体がついていかないこと、もう一つの理由は肺と心臓などがまだ弱いことである。それで動きのテンポを少し変えただけでハアハアと息が上がってしまい、技が切れてしまうのである。

本来、一技一呼吸の息づかいは道場の稽古のなかで身につけていくものだろうが、なかなかそれだけでは難しいようなので、自主稽古で修練するのがいい。

一技一呼吸のために肺や心臓を強くするように鍛えるには、投げ技の受け身を沢山取るのがいい。例えば、四方投げで連続して投げてもらって、それを後ろ受け身で取る。投げられて体が畳に接している間は息を出し、立ち上がるとき息を出し切ると、立ったときには息が腹に満たされる。そして息を吐きながら掛かって行く。30回〜50回続けて受け身を取るが、倒れて起き上がったら動きを切らずに、すぐ相手を取りに行くように稽古をする。

無駄な息づかいをすると息が乱れるので、30回も続かない。30回続いてできるようになれば、肺と心臓がある程度しっかりしたことになるだろう。しかし、一朝一夕でできるわけではない。人にもよるが、数ヶ月から一年ぐらいはかかるだろう。

相手に投げてもらって受け身で息づかいがうまくできるようになったら、自分で前受け身、後ろ受け身を30回〜50回取るといい。動きが途切れないように一人で受け身をとるのはそう簡単ではない。相手に投げてもらって取った方が容易である。

道場だけが稽古場ではない。道場の行き帰りでも稽古はできる。息を止めて歩くのである。あの電信柱までとか、次の曲がり角まで息を止めておくとかの訓練である。子どもの頃お風呂やプールで、どちらが長く潜っていられるかという遊びをしたのと同じやり方である。
また、家や屋外で祝詞やお経をあげるのも息づかいのよい稽古になるだろう。

これらの鍛錬で息づかいがある程度できるようになったら、あとは技の稽古で切れない息づかいを意識してやることである。速く動いても、どんなにゆっくり動いても、呼吸が切れないで一技一呼吸で収めるようにならなければならない。さらに、このあとは呼吸に合わせて動ける訓練をすることになる。超遅速、また、超瞬速の呼吸に合わせて体が動けるように稽古していくのである。

昔から、初心者は動きに合わせて呼吸し、達人は呼吸に合わせて動くといわれる。 達人を目指そうではないか。