【第377回】 科学技術研究と合気道の稽古 〜帰納と演繹の稽古〜

合気道の精進・上達基準の一つは、呼吸力と法則であると考える。呼吸力を養成することと、そして、宇宙の法則を一つでも多く身につけることである。宇宙の営み、宇宙の条理・法則を形にした技を練磨しながら、身につけていくのである。その法則を一つでも多く身につけ、また、身につけた法則をより洗練できれば、精進、上達することになる。

初心者の内は、指導者が法則を技で示してくれたものを稽古し、身につけていく。この次元の稽古は相当長く続くが、いずれは自分でその法則を見つける次の稽古の段階に入らなければならないだろう。

科学技術研究の世界には、応用研究と純正研究があり、応用研究を演繹、純正研究を帰納である、という。演繹は一般的な法則に基づいて個々の問題を解決し、帰納は多くの具体的な事実を総合して一般法則を導き出す、という。

科学の世界では、「日本の産業を振興するために、科学技術の研究を行う必要がある。しかし、応用科学ばかり行うと退廃する。純正研究を同時に行わなければならない」(理化学研究所長 大河内正敏)という。

科学する合気道の世界でも、演繹だけの稽古をしていては駄目で、帰納の稽古も行わなければならないと考える。合気道では、宇宙法則=一般的法則に基づいて、技をかけ合い、何度も繰り返しながら、技が少しでも効くよう、かかるように(問題を解決)稽古していくことが、演繹の稽古ということになるだろう。例えば、手は螺旋に使うという法則に基づいて、手が折れず、ぶつからないように稽古していくのである。

だが、科学技術の研究と同じように、演繹の稽古だけでは不十分であると思う。合気道の目標は、宇宙との一体化などとも言われているわけだが、その目標を達成するためには、演繹の稽古だけでは限界がある。法則は無限にあるわけだから、与えられる法則だけを稽古していては、身に付く法則に限りがあるし、目標にほど遠いところで留まってしまうことになるだろう。

合気道での帰納の稽古とは、基本の技の練磨を通して、多くの具体的な事実を総合して、法則を導き出すことであろう。例えば、力の強い相手にしっかり掴まれると、諸手取り、片手取り、後ろ取り等などで掴まれた手が動かなくなったり、持っている相手の手から外れてしまう、という問題がある。手を十字に使ってこの問題を解決できると、これが〇(まる)に十(じゅう)の十字(じゅうじ)の法則ということになる。

合気道創始者の植芝盛平開祖は、宇宙の法則を数多く我々に残して下さっている。それだけでも、演繹の稽古ですべて身につけることは不可能かも知れないが、僭越ながら、まだまだ宇宙の法則はあるはずであるから、我々後進は帰納の稽古で、新たな法則を見つけていかなければならない。開祖もそれを願っておられたはずである。我々ができなければ、次の世代の後進、その次の世代・・・がやってくれればよい。

帰納で法則を見つけても、その法則を確認したり、洗練する必要があるので、演繹も必要になる。合気道でも、帰納と演繹両方の稽古が必要ということになる。

参考文献:「科学技術研究 応用と純正同時に」 (東京大学名誉教授 和田昭允、日経産業新聞)