【第376回】 手・腕を折り曲げない

人間の体、中でも手・腕はよくできているものだ、とつくづく思う。7段階の関節が、必要に応じて働いてくれる。この関節のどの段階のひとつでも無いとしたら、身の回りの多くの物はずいぶん違った形になっただろう。今、身近にあるものは、人間の手・腕の形や機能に合うようにつくられ、そして使われているのであろう。

手・腕の関節はどこの段階でも、独立して自由自在に働いてくれる。箸をもって茶碗でご飯をたべたり、食べ終わった茶碗や箸を洗って拭いたりと、関節は自在に働いてくれる。

しかし、合気道で技を練磨する稽古をする際は、これらの関節を日常生活と同じように使ってはならない。自分の腰腹からの力が手先まで伝わらないし、相手にも伝わらず、相手と一体化、つまり結ぶことができないからである。従って、技にならないのである。

長年稽古していると、ある程度の基本技の形は覚え、腕力はついてくるので、初心者や力の弱い相手と技をかけ合えば、相手が崩れ、倒れてくれ、それで満足してしまうようだ。だが、よく見てみると、力に頼ってやっているので、相手を弾きとばしてしまい、相手と結んでないのである。 

このように力で弾き飛ばしてしまう大きい原因は、手・腕を折り曲げて使っていることである。日常生活での使い方の延長で、技をかけているのである。7段階の関節の手・腕は、まず一本として、一振りの剣として、使えるようにしなければならない。折れ曲がっていれば、鈍剣となり、使い物にならないはずである。

7段階に分れているこの手・腕を、折れ曲がらないようにするには、そのような手・腕をつくることと、手・腕が折れ曲がらないように使うこと、である。

まず、そのような手・腕をつくることであるが、7段階にある各関節を柔軟にして、働きをよくすることである。3段階ある指先から、手首、肘、肩、胸(胸鎖関節)と、一つ一つ圧し・伸ばして、柔軟にする鍛錬である。この際、大事なことは、息に合わせ、しかも正しい息づかいでやることである。伸ばす際は、息を入れ(吸う)、圧する際は息を吐くのである。これを間違えると、硬くなるし、痛めることになる。

次に、手・腕が折れ曲がらないように使うことである。本来、7段階に折れ曲がるものを一本にするのだが、このためにはポイントがある。

一つは、手・腕を螺旋でつかうことである。螺旋こそが、各段階の関節を繋ぎ留める鍵である。手・腕を日常生活でのように直線的につかうと、必ず折れ曲がるのである。

二つ目のポイントは、息づかいである。生産びの息づかいで手・腕をつかわないと、折れ曲がってしまうのである。とりわけ引く息で、一本の折れ曲がらないものになる。引くところを吐いてつかうと、必ず折れ曲がるものだ。手・腕を腹の前に出して息をしてみればわかる。腕を伸ばして吐くより、吸う(引く)方が、芯の通った強い腕になることが分るだろう。

三つ目は、手先と腰腹を結んで、腰腹で手・腕をつかうことである。技は体の末端ではなく、中心から動かさないと、真の力が出ないし、技にならない。そのために、手・腕が折れ曲がることになる。