【第369回】 胸を鍛える
前回と前々回は、息も十字に使わなければならない、そのためには、十字の横となる胸式呼吸を使わなければならない、と書いた。また、胸式呼吸には摩訶不思議な働きがあるようだ、とも書いた。
今回はそれに関連して、その胸式呼吸に十分働いてもらうために、主役となる胸をどのように鍛えていけばよいのか、を考えてみたいと思う。
胸を鍛えるこの場合の胸には、二つのことが重要だろう。一つは肺であり、もう一つは肺の入っている胸郭である。ここでの胸は、肺と胸郭ということになる。
胸式呼吸では、吐くよりも吸うこと、息を入れること、が重要のようだ。その胸式呼吸が働くためには、胸はできるだけ多くの息(空気と天地のエネルギー)が入り、保持と出し入れが自由になるようにしなければならない。
当面の胸の鍛錬の目標は、@肺活量をアップする A持久力を高めること B胸の柔軟性ということになるだろう。
「肺活量の基本的な容量は、肺の大きさ、つまり体格でほぼ決まってしまうといわれるが、肺を鍛えることによって、ある程度は肺活量を増やすことができる」とも言われる。合気道の稽古でも、肺活量は増やせることになる。
合気道の稽古では、これらの胸の鍛錬も同時にやっていることになる。肺活量をアップするためには、白帯の時代や初段・二・三段の間に、たくさん受けを取るのがよい。受けをたくさん取れば、肺活量が増えるだけでなく、肺も胸も柔軟になり、持久力を伴う呼吸となるはずである。
持久力が高まると肺活量もアップし、肺(胸)が柔軟になる。従って、足腰が立たなくなるぐらいまで稽古すれば、持久力がつき、胸が柔軟になり、そして、肺活量が増えることになる。
合気道の稽古で胸を鍛えるためには、次のような稽古をすればよいと考える:
- まずは、ハアハア、ゼエゼエいうほど、つまり自分の限界の紙一重上まで、精一杯の稽古をすることである。
- 胸と胸に関係する筋肉を柔軟になるように意識して、稽古をする。
- 胸を柔軟に大きく働いてもらうためには、その裏側にある肩甲骨に大いに働いて貰わなければならないので、肩甲骨が上下、前後に背中の上を滑るように動くようにする。つまり、肩甲骨の可動範囲を広げて自由に動くようにするのである。
- 肺の入っている胸郭(正確には胸くう)が、吸気で左右、前後、上下への拡大可動が大となるように、関連筋肉・筋を柔軟にする。特に、胸郭の下部の可動範囲を広げる。
次に、ある程度、胸が鍛えられたとしたら、これをベースとして、さらに鍛えていかなければならない。これには終わりということはないはずであり、いかなる高段者でも鍛え続けて行かなければならないことになる。
- 技をかけるときは、十字の動きを呼吸に合わせてやらなければならないので、手足や体と息は、縦―横―縦となり、横の胸式呼吸で胸が鍛えられることになる。
- 技は息(呼吸)でかけるようにする。初心者は動きに合わせて息をしているので、技が決まらないだけでなく、息切れしてしまうのである。十字の動きでは胸式呼吸だけでなく、縦の腹式呼吸も鍛えられることになるから、胸も腹も鍛えられることになる。
- 技をかけるときだけでなく、受けを取る時も、十字の呼吸で、胸式呼吸に合わせて、受けを取っていくことである。共に十字であれば、受けと捕りの呼吸は合うことになる。受けを取っても、胸は鍛えられるから、受けを取るのがつまらないと思うようでは、大事なことを学んでいないことになろう。
- 技の稽古だけでなく、いろいろな場で胸式呼吸を使って胸を鍛えるようにする。例えば、柔軟体操、準備運動、礼、剣の素振り、鍛錬棒の素振り、肢股踏み、船漕ぎ運動等などである。
- また、日常の場においても、この鍛錬はできるだろう。草花や動物、お日さまやお月さま、山川山河などなどを観るのも、胸式呼吸で見ていけば、通常では見えないようなものが観えるし、その対象物がこちらに近づこうとしているように感じられたりする。このようにモノを観ていけば、胸も鍛えられるはずである。
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