【第362回】 関節の可動域を広げる

力は、筋肉と関節をうまく使うことによって出てくる。従って、強い力を出すには、筋肉と関節を鍛えなければならないことになる。

筋肉を鍛えるとは、筋肉を伸ばしたり縮めたり圧をかけたりして、柔軟で強靭にすることであろう。

関節を鍛えるとは、二教などで壊れないように強靱にすること、三教などで伸ばされても壊れないように柔軟にすることことであるが、もうひとつ、関節の可動性を増す、つまり可動域を広げるということである。

合気道での技の練磨により、身体の筋肉と関節のほぼ全部を鍛えることができるはずだし、そう鍛えなければならない。そのためには、受け身などで多少痛くても我慢して、極限まで伸ばしていかなければならない。特に、固め技の最後の固めは、しっかりやらなければならないだろう。

関節の可動域とは、各関節が運動を行なう際の生理的な運動範囲で、身体の各関節が、傷害などを起こさずに生理的に運動することができる範囲(角度)のことをいう。主な可動関節には、頚部、胸腰部、肩関節、肘関節、手関節、股関節、膝関節、足関節などがある。

この内、身体の中で、大きな力を出す関節は、股関節と肩関節とされ、合気道でも大事だと思われる。今回は、そのうちの肩関節の可動域をみてみたいと思う。

肩関節は人体のなかで最大の可動性を有するが、自由に動くことができる半面、安定性に欠ける。この可動性と安定性という相反する機能が要求されることになるので、複数の関節が肩複合体として機能している。従って、肩は複合体で機能するように使わなければならない。だから、肩を使うのは難しいのである。

初心者は肩から力を出して技をかけるが、これでは大した力が出ないし、肩を痛めたりする。

肩を痛めず、大きい力を出すためには、まず胸鎖関節からの“長い腕”をつかうようにしなければならない。そして、腰腹からの力でやれば、相当に大きい力が出るようになる。

胸鎖関節からの“長い腕”がつかえるようになったなら、肩のところで腕を縦と横に十字につかうと、さらに腕が伸びる。恐らく10cmは可動域が広がり、腕も伸びるのではないだろうか。

さらに、菱形筋で肩甲骨から力を出すようにすると、もっと強力になる。菱形筋で肩甲骨を背骨に引きよせるのである。つまり、肩甲骨と肩関節・肩複合体が外旋し、可動域が広がるのである。

この肩甲骨と肩関節は横に可動するわけだが、前項の腕は十字の回旋によって縦に可動するから、この肩甲骨と腕は十字に大きく可動することになる。肩関節のところで腕を十字につかえば、腕は長く使えるし、腰とも結んで強い力が出て、自由な円の動きができるようになる。

この肩甲骨と肩複合体の可動域が大きければ大きいほど、自由に動けるし、強力な力が出るようになる。従って、ここの可動域を少しでも広げるように稽古すればよい。大きく息を入れながら、菱形筋で肩甲骨を外旋するのである。

さらに、ここの可動域を広げる運動をするなら、船漕ぎ運動、腕立て、それに正面打ち・横面打ちの素振りがよい。

菱形筋は、下肢の内転筋群、大腰筋などの深層筋ネットワークに繋がり、足からの力を受け取って、肩甲骨を通して腕に伝えていくことになる。これを意識して、繰り返し鍛錬することによって、ここの可動域は広がっていくはずである。そうすれば、ますます大きい力が出るようになるはずである。

前述のように肩を十字につかうのも、肩複合体の可動域が広がることになるが、この十字によって可動域を広げることと、菱形筋による肩甲骨と肩複合体の可動域を広げてつかうことが、合気道の技をつかう上で大事なようだ。

大きい力を出したいのなら、筋力を鍛えるのもよいが、関節可動域を広げる方がよい。なぜならば、関節可動域と筋力は、表裏一体であるといわれるからである。