【第36回】 見取り稽古

合気道の稽古の基本は、師範や指導者が示す技を見て、それを真似したり参考にして技を磨いていくことにある。先ずは、技を示す人の動きや手足の使い方、間合いやタイミングなどをよく観ることである。

人は自分では見ているつもりでも、往々にして見逃しているものである。稽古にも慣れてくると、師範が示した技とは全然違ったことをやっていることもある。惰性や思い込みでやってしまうのは、目の過信からくる。

道場では通常二人で組んで稽古をするが、動きをよく見るのは稽古相手と技を示す師範の二人だけであろう。周りでは大勢が稽古をしているが、他人の動きや技を見ることはほとんどない。

他人の動きや技を見るのは勉強になる。人のいい面だけではなく、悪い面を見ても、反面教師ということで、自分がそうならないようにしなければならないと自覚できるし、その問題点と解決法を見つけることができるので、これも大事な稽古となる。

「見取り稽古」という稽古法があるが、これは昔から大事であると言われている。若くて、初心者の頃は、見取り稽古をするよりも自分で身体を使った稽古の方に関心がいったものだが、長年稽古を続けてくるとその重要さが分かってくる。若い頃、開祖が道場に見えるとみんな稽古を中断して、開祖の話を聞いたり、高弟を相手にした演武や神楽舞を見ていたが、足のしびれもあり、自分が身体を動かしたくてむずむずし、開祖の動きはあまり真剣に見ていなかったものだ。今になれば、あのときもっとよく見ておけばよかったと大反省している。しかし、この反省は、先輩はじめ、開祖を知っている人みんなにあったようだ。

名人や達人は、見ただけで技を盗むという。従って、技を術とした時代は、技は他人に見せるものではなく、隠しておくものだった。今は、術の時代ではなく、道の時代となり、技がどんどん公開されている。自分ひとりで出来上がらないで、他人の技を道場での見取り稽古や、他の武道の演武会などでの見取り稽古をしてはどうだろうか。見取り稽古ができるようになれば、一人前と言えるかも知れない。