【第358回】 先ずは一体化

合気道は開祖がいわれているように、技の練磨をしながら上達・精進していくものであるが、技の練磨を深くしていくためには、力が要る。そのため、合気道ではエキストラで呼吸法という、特別カリキュラムをやっている。それが、呼吸法である。従って、この呼吸法は技ではないし、ハアハアと息遣いの呼吸の稽古でもない。この呼吸法を技と間違えて、相手を投げたり、抑えて満足していては、呼吸法になっていないことになる。

呼吸法とは、呼吸力養成法であり、呼吸力を身につけるための稽古法なのである。他の武道にはないすばらしい、理合の稽古法である。

技の練磨というのは、相対稽古で相手と技をかけ合いながら、技の法則を見つけ、その正否を確認し、正なるものを身につけていくことであるが、やはりある程度の力、それも呼吸力がなければ、技の練磨なども難しいものである。

有川定輝師範が言われていた「呼吸法のできる程度にしか技はつかえない」というのは、このことだろうと思う。だから、師範は、呼吸法でしっかり力(呼吸力)をつけて、技を磨けといわれていたのだろう。

合気道の相対稽古で、真の合気道の力である呼吸力をつけるのは、そう簡単ではないものだ。その理由は、

  1. 呼吸力とは何かが分り難いことである
  2. 呼吸力をどうしてつけるのかが分らないことである
呼吸力と呼吸力のつけかたについては「第295回 呼吸力の鍛錬」で書いたので、ここではスペースの関係で詳しいことは省略する。要は、呼吸力とは通常の力とは違い、相手を弾き飛ばすのではなく、相手をくっつけてしまう吸引力をもった力であり、相手に反抗心を起させにくい力であるといえよう。また、呼吸力のつけかたは、宇宙の営みに則った法則にあった動きの中で身につけていかなければならない、ということである。

技をかけるにあたって、力をつけようとして力を込めてやると、相手の体を弾いてしまったり、せっかく持たせた手を離したり、切ってしまうことになる。それ故、どうしてもおそるおそる力をいれたり、力をセーブしてつかうことになるが、これでは力がつきにくい。

では、力をつけるためにも、どうすれば力一杯に力を出し、その力をつかいながら技をつかうことができるのか、が問題となる。

呼吸力をつけるための最良の稽古法は呼吸法であるから、呼吸法で呼吸力をつけていくことである。しかし、これもやり方を間違えるとただの腕力養成になってしまうから、注意しなければならない。

まず大事なことは、相手を投げることを目的にせず、自分の呼吸力をつけることが目的であることを自分に言い聞かせて、稽古することである。

そして、最も大事なことは、相手と一体化することである。1+1を2ではなく、1にするのである。自分と相手がひとりになるのである。ひとりならば、相手は自分の手足のように分身であるから、多少力を入れても、自分の体から離れないはずである。そうなれば、力一杯やっても離れず、一緒に動いてくれるだろう。

しかし、一体化するのは容易ではないものだ。呼吸法で相手と一体化するには、持たせる手を前後左右上下に隔たりのないようにしなければならない。開祖がいわれている、天之浮橋に立った手と体にしなければならない。これは5年や10年で分かるものではないと思うが、これができれば相手と一体化し、多少の力を入れても、相手とくっついて離れないようになるはずだ。

呼吸法で相手と一体化できるようになれば、後は技で力一杯やっても一体化し、相手と離れることなくできるようになるはずである。そして、この基礎が身につけば、後は呼吸法と技の形稽古でどんどん力をつけていけばよい。ここから、本格的な、力一杯の稽古ができるようになるはずである。

合気道の修行の最終目標は宇宙との一体化である、といわれるが、稽古相手との一体化ができなければ、宇宙との一体化などとうていおぼつかない。最終ゴールのためにも、稽古相手との一体化は必須である。