【第354回】 杖(じょう)で鍛える

「第316回 得物 〜序〜」「第317回 得物 〜合気の剣〜」で書いたように、剣や杖の得物をつかった稽古は、合気道を精進する上で必須であると考える。ある程度の段階に達したら、剣と杖の素振りをすべきだろう。それは、体を鍛えるだけでなく、体の合気道的な使い方を身につけ、合気之理論を確認するとともに、それで得た理合を相対稽古で技として試すことができるので、徒手だけの稽古では得られないものがあるからである。

以前の上記の「第316回 得物」では「剣」の稽古法を書いたので、今回は、杖での鍛練法を書いてみよう。

先ず、剣でも同じであるが、杖をつかう稽古の意味を自覚しなければならない。合気道の杖の稽古には、三つの要点がある。

一つは、合気道は人を攻撃することをしないので、杖は相手を攻める術ではないことである。これは敵を攻撃し、せん滅することを目的としている武術とは違う。もし、相手をやっつけたいのなら、そのような道場で武術としての杖道を学べばよい。

二つ目は、合気道の基本は徒手であるから、杖を使う鍛練は、徒手を鍛え、徒手の機能をよくするためのものでなければならない。

三つ目は、杖を自分の身体の一部として使うことである。すなわち、杖を自分の手足の延長としてつかえるようにならなければならない。これは、道場の相対稽古で技をかける時、相手と一つになり、相手を自分の一部としてしまうのと同じである。

しかし、武術の杖とは真剣を想定した術でもあるわけだから、木でできている杖が太刀で切られることがないように操作しなければ、杖をつかう稽古の意味はない。これに注意して修練していかなければ、意味がなくなる。

杖の素振りの稽古も、毎日やるのがよい。稽古は積み重ねであるから、毎日やることによって、前日に結びつき、そして、それに積み重ねられていくからである。たまにやったのでは、以前にやったことを忘れたり、それに結びつくまでに時間がかかるので、上達が難しくなる。また、毎日、杖に触れることによって、手や体になじみ、手足の一部、分身になっていくのである。

忙しい世の中であるから、毎日の杖の素振りにもあまり時間はさけないだろう。先ずは、最低の基本的動きだけでよい。突き2回、横面を左右、下段を左右、そして、また突きに戻る、を繰り返すのである。教えてくれる先生はいなくても、簡単な動きなので、誰にでもできるはずだ。ただし、2年や3年では大したことは身に付くものではない。10年、20年とやっていくうちに、杖が体になじんでくるだろうから、焦らずにやることだ。

杖の素振りの稽古で学びやすいこと、学ぶべきことを挙げてみる。

このようなことを意識して、杖の素振りの稽古をすればよいだろう。

杖が振れるようになると、杖を持たなくとも、杖を持っているかのように動けるようになるものだ。こうなれば、「合気杖」と言えるだろう。合気の理合がより身に着くために、そして「合気杖」になるように、杖でも鍛えていきたいものである。