【第351回】 手づかいの法則
前々回の「宇宙の法則を身につける」、前回の「足づかいの法則」に引き続き、今回は、「手づかいの法則」を書いてみる。前回の足と同様、宇宙の法則を身につけるためには、手をどのようにつかっていけばよいかということである。
合気道の相対稽古で技をかける時は、主に手をつかうのだから、手は大事である。手は大事であるから、手を知らなければならない。しっかりした手をつくらなければならないし、その手がうまく機能するようにしなければならない。
まず、手は指先から肩までではなく、指先から胸の中間にある胸鎖関節までをいうのである。ここには7か所に関節があり、その周りには腱や筋肉があるから、それらを鍛え、そして柔軟に機能するように鍛えていかなければならない。
それ故、合気道での初心者の稽古は、まず合気道の体をつくることが主体となる。特に、一教、二教などの固め技、諸手取りの呼吸法などをしっかりやらならなければならない。手を見れば、どれくらい稽古しているか、だいたいわかるものである。まずは、しっかりした手ができるように、体を鍛えなければならない。
手がある程度しっかりしてくれば、今度は、宇宙の法則を見つけ、その法則に則る稽古をするようにしていかなければならない。だが、これが意外と難しいようだ。なぜなら、しっかりした手ができてきて、手に力がついてくると、その力に頼ってしまい、その力で相手を投げたり抑えることで満足してしまうからである。
そうなると、力の合気道になるわけだが、魄の力には限界があるし、若いうちだけのことで、長くは続かない。
力に頼らない稽古をはじめると、一時は力が落ちるような気がするだろうが、自分を信じて、ここから宇宙の法則に従った合気にしていく決心と努力が必要になる。
人間の場合、大方は足と腕がそれぞれ2本ずつ与えられている。2本より多くもなく、少なくもない。足が3本あったりすると、使いにくいことだろうし、腕が4本でもこんがらがることだろう。これも宇宙の傑作であると思う。
では、この2本の手を宇宙の法則に則ってどのようにつかえばよいかを、ここに紹介したいと思う。もちろん、宇宙の法則がこれだと断定などできないが、誰にでも通用するような法則こそが、宇宙の営みに則った、宇宙の法則であると考える。あとは信じるしかない。
- 2本の手を左右交互に規則的につかう:技をかける際には、手も足と同様に右、左、右・・・と交互に規則的につかわなければならない。
初心者はどうしても、前に出している手だけで技をかけようとしてしまいがちである。その典型的なものは「入身投げ」である。
- 2本の手を陰陽交互につかう:上記の左右交互につかうことに関連して、陰の手を陽にしてつかい、陽にあった手を今度は陰に反す、を規則的に繰り返さなければならない。武道的な意味での当て身を入れる時や止めをさす場合には、この陰から陽に変わるときである。宇宙の営みも、暑くなれば寒くなり、寒くなれば暑くなるの陰陽の繰り返しであり、陰だけ陽だけということはない。
- 体の中心の腰腹と結ぶ:足もそうだが、手も体の末端にあるので、腰腹とのつながりが難しい。万有万物は宇宙の中心である一元の元とつながっている。小宇宙の中心は腰腹であるから、この中心と末端の手は結ばれなければならないことになる。従って、腰腹と手は結ぶようにしなければならない。腰腹と手をつなげたら、最後までその結びが切れないように、手をつかっていかなければならない。
- 腰腹で手をつかう:上記の手を腰腹に結ぶことに関連して、体の中心である腰腹で手をつかうようにしなければならない。宇宙では、中心を周りのものが巡っているのだから、周辺のものが中心を差しおいて動くのは、宇宙法則に違反することになる。
稽古でも、腰腹で手をつかわなければならない。手から先に動いてしまうと、力が出ないし、技も出ないものである。このためには、肩を貫く稽古もしなければならない。
- 手の表をつかう:宇宙の万有万物には、すべて表と裏があるはずである。そして、仕事をするのは、表であるようだ。それは、自分の体でもわかることだ。体の裏をつかってやってしまうと、技は効かないし、体をこわしてしまう。手の表とは、腕の肘側や背中側である。腰からの力は、こちら側を通さなければならない。
- 十字でつかう:宇宙は、縦・横十字で営まれているという。それに合うように、手も十字につかわなければならない。技の初めの手の形は、基本的には手の平が地面に対して直角である。初心者など、これが横になると不自然で、弱々しくなり、相手に容易に決められたり、悪戯されてしまうことになる。手は、この直角の体勢から横の水平へと倒し、そして、縦、横と十字に使うのである。手を十字につかうと、手は螺旋に動くから、各関節がつながって一本の手となり、腰腹からの大きい力が手先まで流れ、相手をくっつけてしまう引力も出てくる。相手に抑えられて動けなくなったり、相手の手が離れたり、ぶつかってしまうのは、手を十字につかってないからでもある。
- 十字は縦からつかう:足と同様に、手も縦からつかわなければならない。手を、肩を中心にしたて横からつかうと、力が出ないし、相手との結びを切ってしまう。例えば、「片手取り四方投げ」などを考えるとよい。
手を縦につかうとは、手を手先(指)を中心にかえす(回す)円の動きのことである。横につかうとは、この縦に対して十字、つまり、手を肩や胸鎖関節を中心にかえす(回す)円の動きのことである。縦をかえさずに横から動かすと、宇宙の法則に反し、ヒルコになってしまうので、技がうまくいかなくなることになる。
手づかいの法則は、足づかいの法則とほぼ同じということになる。
なお、手と足は左右交互に規則的に動かなければならないし、武道の手足の動きはナンバであるから、手と足は同じ側が一緒に右、左、右・・・と規則的に動かなければならないことになる。
手と腰腹、足と腰腹は結ばれているので、手と足もつながっていなければならない。手先の重みを足で感じ、足の重みを手先に通すことである。
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